譲渡額
~1億円
売上高
非公表

不動産業界の事例

サラリーマンによる買収。オフィスの譲渡案件

エリア
関西
オーナー
40代
売却検討理由
事業の選択と集中
スキーム
事業譲渡

河村 裕司

株式会社YKフューチャーコンサルティング

今回の案件では、単なる物件譲渡にとどまらず、顧客の引継ぎや予約管理システム、証票などを包括的に譲渡することができました。
売却を検討されているオーナー様にとってM&Aはリソース不足などの課題を解決する一助となるとかんがえております。当社は引き続き、売り手様と買い手様の双方にとって最適なサポートを提供してまいります。

-次世代へ引き継がれるM&Aを目指して-
案件のご相談のスタートはM&Aプラットフォームの活用から!

-案件の概要について教えていただけまずでしょうか。

不動産業を営む事業者様が、本業である管理事業(他社物件の管理)に注力するため、レンタルオフィスの売却を希望されておりました。同事業者様はレンタルルーム市場にまだ成長の余地があるとお考えでしたが、リソース不足の影響で事業運営が中途半端になりつつある状況でした。そのため、物件の売却が最善と判断され、物件情報の掲載と弊社への売却依頼が行われました。
買い手候補は同業種の方や異業種のメーカーなど多岐にわたりましたが、最終的には副業としてレンタルオフィス事業を始めたいと考えているお医者様に売却が決まりました。買い手であるお医者様は法人をお持ちの個人の方であり、節税対策としても事業を検討されていました。
本件では、物件の譲渡にM&Aプラットフォームが活用されました。こうしたスキームを借りようすることで、単なる物件譲渡だけではなく、顧客の引継ぎや予約管理システム、証票などを包括的に譲渡することが可能です。実際に売り手様に弊社を選んだ理由をお伺いしたところ、物件単体ではなく、広範囲なパッケージとして譲渡は可能である点に大きな魅力を感じられたとのことでした。
これまで他の不動産プラットフォームに掲載されていた物件でも、M&Aプラットフォームを活用した包括的な譲渡を検討する流れが増えてきていると実感しております。
売り手様は大阪に2軒、東京に1軒の計3件の物件を保有されていました。しかし、物件が地理的に分散していることが運営の課題となっていました。売り手様は東京在住ですが、以前大阪に住んでいた経緯があり、大阪の物件も保有されていました。
これらの物件の管理業務は一度、管理会社に全て委託されたものの、思うような成果が得られなかったとのことです。また、遠方の物件を運営することの難しさを実感し、今後大阪に拠点を移すことや本業がある中で大阪に頻繁に通うことは現実的ではないと判断されました。その結果、物件売却に踏み切る形となりました。

株式会社YKフューチャーコンサルティング 河村様

最難関の課題!複数物件譲渡のポイントとは

-M&Aに対する不安や課題をオーナー様は抱えていたと思いますが、オーナー様が抱えていた不安、課題はどのようなものだったでしょうか。

事業者様は「選択と集中」の観点から、本業に再び専念する決断をされました。また、3軒の物件を同時に手放したいというご意向があり、これらの物件をまとめて購入してくださる方を探していらっしゃいました。私自身、この条件は非常にハードルが高いと感じておりましたが、「全てを一度に手離れさせたい」という事業者様のお気持ちには大いに共感しておりました。

-課題や不安に対してどのようなアプローチをされていたのか教えていただけますか?

まず、売り手様のご意向を尊重し、3軒すべてをM&Aプラットフォーム上に掲載する形で取り組みを開始しました。この際、プラットフォームの特性を活かし、広範囲にオファーを送信しました。一斉送信が可能な機能を利用し、近しいエリアや業種、積極的に買収意向を持つ方々を中心にアプローチを行いました。しかし、一定数の候補者に接触した段階で、新たな買い手候補が現れず、打ち止めの状況となりました。
その際、売り手様に対し、「弊社で物件の概要書をすべて作成いたしますので、3軒を分割して売却するという方向で検討してみてはいかがでしょうか?」とご提案させていただきました。この方法であれば、例えば大阪の物件を購入希望の方が現れた際、「実は近くにもう1軒もございますので、セットで購入していただける場合にはディスカウントをご提供できます」といったクロスセルの提案が可能になると考えました。また、3軒を最初からセットで売却する形に固執せず、段階的に提案を進める方が成約に繋がりやすい可能性についてもお伝えしました。
このご提案に売り手様も賛同してくださり、最終的にこの方法が功を奏して成約に至りました。大阪には梅田と心斎橋にそれぞれ物件がありましたが、まずは大阪の1軒を単独で掲載。その後、購入希望者に対してクロスセルの形で2軒をセットで購入いただくことができました。
一方、東京の物件については、売り手様がご友人を見つけて売却を進められたため、弊社が関与したのは大阪の2軒のみとなりました。


成約の決め手は、最初のゴールに戻ること

-印象に残っているエピソードや困難だったポイントについて教えていただけますでしょうか?

この案件は、「ザ・スモールM&A」の典型的な事例ですが、私にとっても初期に担当した案件であり、最後の段階で想定外の苦労が生じたことから、特に記憶に残っています。苦労があった理由は、買い手様が売り手様から管理会社様に解約意思を示し、そこから管理会社様が買い手様に契約案内を行うという流れを想定していたのに対し、売り手様は、買い手様から直接管理会社様に連絡する形を考えており、その点で認識の違いが生じたためです。手続きは文章で取り交わされていたにもかかわらず、売り手様が作成された文面に対して双方の解釈に微妙なずれがあり、この点がクロージング直前になって判明しました。その結果、この調整に追われる形となり、譲渡の予定時期が約1ヶ月遅れる事態となりました。この間、双方の主張は平行線をたどり、なかなか歩み寄ることができない状況でした。状況を整理し、解決策をご提案させていただいたものの、双方とも譲歩する気配はなく、お互いに対する不信感が募るばかりでした。その後、3社間で協議を続けましたが、状況は改善せず、最終的に私が全ての調整を担当することに切り替えました。
特に重要だと感じたのは、当初の目的に立ち返ることでした。当時、売り手様は感情的になり、経費を度外視して弁護士を立てることも検討されていました。そのため、私は冷静に目的を振り返っていただくため、当初の記録を送付するとともに、「そもそもM&Aの目的は何だったのか?」を思い出していただくようお伝えしました。クロージングの最中は、条件面に意識が偏りがちですが、このように当初の目的を意識し続けることは、本件に限らずすべてのM&Aにおいて極めて重要と考えています。本件では、売り手様の本来の目的は「物件を売却し、本業に集中すること」でした。経費を折半してでも先方の売却額を受け入れれば、十分に目標金額に達成できる見込みがあり、売り手様が本業に集中する環境を整えることができる点を明確にお伝えしました。また、目的は「自分の主張を押し通す」ことではないことを再確認していただくため、私の方でシミュレーションを作成し、目的を達成する前提で譲歩案を提案しました。最終的には、両物件の費用を折半する案をご提案し、この変更によって当初の目標は十分に達成できるという点を定量的に冷静に示しました。結果として、売り手様・買い手様双方にご納得いただき、最終的に買い手様からも感謝のお言葉をいただき、無事にご成約まで進めることができました。この案件では、完全に板挟みの状態で、双方の立場や感情を冷静に調整することに非常に苦労しました。しかし、最終的にはお客様から「ここまで交渉に付き合っていただき、本当にありがとうございました」という感謝の言葉をいただき、満足いただけたことに安堵しました。

-この案件が成功した要因は、どのような点になるのでしょうか。

最初は黒字化できておらず、売り手様は収支表もご準備ができていないという状況からスタートしました。そこで事前に「磨き上げ」のプロセスを設けたことが本件が前向きに進み始めた大きな要因だったと考えております。当初は、半年以上かけて黒字化を実施し、収支表もお客様がダウンロードできるように整えたところ問い合わせが増加しました。また、M&A実行の最中に大家から家賃の値上げの打診がされるという難しい状況が発生したこともありましたが、オーナー様との交渉についてもアドバイスさせていただき、売り手様の立場を守るために調整を決めることができたのも大きな成果でした。家賃値上げの問題について、引き継ぎ先がしっかりと確保されることで将来的な家賃収入も継続的に期待ができる点を説明することで、オーナー様から譲歩案を引き出すことができたのは非常に効果的なアプローチでした。もし、このような交渉を経ずにオーナー様から提示された家賃増額の条件をそのまま受け入れていた場合、本件のクロージングがさらに難航していたでしょう。

-売り手オーナー様が最も満足されたのはどのような点だったのでしょうか。

物件の魅力を高める点で特にお力添えをいただいたと感想をいただいております。具体的には、単独で販売するのか、セット売りで販売するのか、物件概要・収支について情報を集め、それらを可視化し、情報開示を積極的に行った点となります。損益分岐点の売上高のシミュレーションの活用も、売り手様と買い手様の双方のご支援に繋がったと感じております。
また、家賃交渉に関しては、退去を前提としつつも、間を空けずに買い手様を次の入居者として引き継ぐことで、オーナー様にとってもメリットがある形になるよう助言させていただきました。この交渉プロセスに対して、オーナー様からは「一人では到底思いつかなかった」とのお言葉をいただきました。さらに、「もし一人で進めていたら、黒字化の見込みも立たないまま3件セット売りに固執してしまい、クロージングは難しかったと思います」と感謝のお気持ちをお話いただきました。


ただ譲渡するだけじゃない、その先の思いを関係をつなぐM&A

-成約後のアフターストーリーを教えていただきたいです。

クロージングの際には前述のようなトラブルもありましたが、現在は私を含め、売り手様と買い手様の3者の関係は非常に良好です。成約後には、3人で食事をする機会も設けるほどの関係となっています。クロージング直前には険悪な空気が流れる場面もありましたが、このお話がスタートした当初は、売り手様と買い手様が互いを信頼し、意気投合していたことを思い出します。
成約後、売り手様から「自身の言動にも反省があるため、このままの形で終わらせたくない」とのご要望があり、買い手様との関係改善に協力を求められました。そこで、私が食事会をセッティングしたところ、買い手様も同様にこの点が心に引っかかっていたようで、快くご参加いただけました。現在では、当時のことを笑顔で振り返られる関係性となっています。
この案件を通じて改めて感じたことは、M&Aは単なる書類上の契約や金銭的な交渉にとどまらず、売り手様や買い手様といった「人」が動いているプロセスであるということです。そのため、関係者それぞれの感情や想いを深く理解し、尊重することが非常に重要です。また、売り手様にとっても売却がゴールではなく、売却後に理想としていた形で事業が運営され、引き継がれているかどうかが重要な要素であることを改めて認識しました。こうした観点から、売却後の買い手様との関係構築がいかに大切かを強く実感しました。

株式会社YKフューチャーコンサルティング 河村様

未来予測?!転換期を迎えるM&A

-今後、M&Aを検討されているオーナーの方に向けたメッセージ、アドバイスをお願いいたします。

現在、M&A市場は大きな転換期を迎えています。特に、「中小M&Aガイドライン」の整備やM&Aプラットフォームの整理により、これまで企業や大規模な組織が中心だった取引が、会社員や個人、副業としても行われるようになりました。また、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)に関するガイドラインが強化されたことで、取引後の統合プロセスに対する関心も一層高まっています。さらに、物件の譲渡においても、不動産プラットフォームではなくM&Aプラットフォームを活用することで、新たな価値を得るケースが増加していると感じています。
今回の事例はレンタルルームに関するものでしたが、最も多く寄せられるご相談は、廃業間近で後継者がいないというものです。このような状況の中で、会社員の方が副業として事業を引き継ぐケースも増加しています。これを支援するような書籍が流行したことも背景にあります。人口減少や高齢化が進む日本において、将来の経済の衰退を避けられないと感じている人も多いようですが、私は日本の経済にはまだ大きな成長のポテンシャルがあると信じています。
2025年には団塊の世代が75歳を迎えると言われており、今後10年以内には日本企業の半数以上のトップが引退する見込みです。この状況を悲観的に捉える風潮が目立つ中、私はこれをポジティブなチャンスと考えています。特に、若くエネルギッシュな世代の経営者が事業を引き継ぎ、IT技術や新しいビジネスモデルに敏感な人材が企業を成長させることで、大きな飛躍が期待できます。このような大規模な世代交代がもたらす変化は、日本の歴史上初めてともいえる転換期であり、日本企業にはまだ「伸びしろ」が十分に残されていると感じています。
事業の引き継ぎが成功するか、あるいは廃業となるか。この問題は、企業だけでなく日本全体の未来に大きく関わる重要なテーマです。現在、国が積極的にM&A市場の整備を進めている背景にも、この課題への強い意識があると感じています。最終目標である「2029年までにクロージング件数6万件」という数値は意欲的なものですが、私たち一人ひとりができることを積み重ねることで、悲観的な未来ではなく、むしろ明るい未来を実現できると信じています。私たちも、その未来を目指して邁進していきたいと考えています。 

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