譲渡額
非公表
売上高
非公表

医療/福祉業界の事例

医療法人格の譲渡:ユニークなM&A案件の全貌

エリア
関東
オーナー
60代
売却検討理由
後継者不在
スキーム
株式譲渡

仲川 康彦

株式会社サスガキャピタルパートナー

この案件全体を振り返ると、医療法人格のみの譲渡というユニークなスキームがいかに有効であるかが明確に示されました。売主様が持つクリニックを廃業した後でも、医療法人格自体に価値があり、スピーディな意思決定と適切なアプローチにより、迅速に譲渡先を見つけることができました。このような案件では、ニーズが非常に高まっていることを実感しました。

医療法人格の譲渡:ユニークなM&A案件の全貌


- 案件の概要について教えていただけますでしょうか。

本件は、歯科医院の医療法人の医療法人格の出資持分譲渡の案件です。エリアは関東、売主のオーナー様は40代でした。検討理由は、事業の「集中と選択」となります。スキームは株式譲渡です。譲受先は、関西の個人の税理士の方でした。譲渡価格は1億円以内です。
 医療法人において、クリニックが実態事業を伴っている場合、クリニックとセットで買収されるケースが多いのですが、医療法人格のみの譲渡もございます。本件は、すでに傘下のクリニックを廃業し、実業がない医療法人格のみが残っている状態での譲渡案件です。売主様は関東に所在し、買主様は関西の個人の税理士様でした。すでにクリニックを廃止していたため、法人格のみが存在し、売上および資産は0でした。このような案件は珍しいとされるケースもありますが、非常に多くのニーズがあります。


クリニック廃業後も価値を生む医療法人格、その理由とは?

- どのような流れで法人格の譲渡案件が進むのでしょうか。また、その際の課題、M&Aスキームはどのようなものなのでしょうか?

  よくあるパターンとして、一人医療法人が挙げられます。例えば、街中に存在する「医療法人社団中川会 中川内科」などのようなクリニックでは、医療法人化されて院長である医師が一人で診療されていることが一般的です。しかし、経営者である院長先生様が亡くなり、後継者がいない場合、クリニックは廃業となります。本来、医療法人はクリニックの運営を前提としているため、クリニックがなくなれば医療法人も廃止届を提出する必要があります。しかし、実際には医療法人をそのまま放置し、とりあえずクリニックのみを閉鎖するケースもが多く見受けられます。
 また、出資持ち分ありの医療法人は現在の法律では新設できませんが、過去の医療法人はほとんどが出資持ち分ありの形態でした。そのため、こうした医療法人を求めるニーズが非常に多くあります。例えば、事業会社様や個人が医療分野に参入したい場合、直接クリニックを所有することはできません。しかし、医療法人の株式を取得すれば、経営権を持つことが可能となります。理事長には医師が必要ですが、雇われ理事長を探して配置すれば、医療法人の経営が可能となります。特に、化粧品業界などの企業様が、クリニックを通じて自社製品を販売したいと考えるケースが多くあります。そのため、医療法人格のみを取得し、医師を雇って理事長と院長を任せることで、経営権を確保するというスキームが一般的に用いられます。 このような背景から、医療法人格のみを求めるニーズは非常に高まっており、過去には1件あたり300万円−500万円で取引されていたものが、現在では1,000万円を超える価格でも取引されるケースが増加しております。ただし、注意すべき点として、医療法人は元々医療機関の運営を目的として設立されているため、長期間クリニックを廃業したまま放置された医療法人格を取得すると、医療行政から指導が入るリスクがあります。そのため、廃業直後の医療法人であれば問題は少ないですが、医療法人格だけが長期間放置されていた場合には注意が必要です。このような市場背景の中で、医療法人格のみを取得したいという強いニーズが存在しております。

- オーナー様がM&Aを検討された背景はどのようなものだったのでしょうか?

  今回の売主様は女医様であり、もともと東京23区内で歯科医院を経営されておりました。ご自身の出身地には、以前から存在する医療法人の歯科クリニックがあり、数年前にオーナー様から引き継いでほしいとの依頼を受けられておりました。結果、ご自身が経営する都内の個人経営のクリニックと、地元の承継した医療法人の歯科クリニックの2つを経営される形となりました。しかし、当該医療法人のクリニックにおいては、患者様の高齢化が進み、診療の継続が難しくなったため、廃業を決断されました。その結果、医療法人格のみが残る形となりました。
 ご相談いただいた際に医療法人株の売却が可能であることをお伝えしたところ、クリニックの廃業後に法人格のみを買い取ってくれる買主様がいれば、ぜひ譲渡したいとのご意向を示されました。売主様にとっては、クリニックの入居しているテナントを退去する際に、スケルトン返却が求められ、原状回復費用として数百万円の負担が発生する可能性がございました。しかし、医療法人格を譲渡することで、この原状回復費用を抑えることができるため、今回の医療法人格の譲渡に至りました。

- オーナー様・M&Aに対してどのようなアプローチをされ、買主様を見つけられたのか教えていただけますか?

  売主様が抱えていた最大の課題は、クリニックを廃業するために早急に譲渡先を見つける必要があった点です。特に、原状回復費用の負担を軽減するためにも、迅速なM&Aが求められておりました。幸いなことに、医療法人格のみを求める買主様のニーズは非常に高く、例えば、個人経営のクリニックを法人化したいと考えているドクターや、出資持ち分ありの医療法人を活用したいと考える事業者など、多くの関心が寄せられました。
 
 特に、医療法人の新規設立には時間がかかるため、すでに法人格を持っている医療法人を買収する方が、スムーズに事業を展開できるメリットがあります。このような背景もあり、複数の買主候補様がすぐに手を挙げられました。結果として、本件は他案件と比較しても非常に短期間で買主様が決まり、スムーズに譲渡が完了しました。

株式会社サスガキャピタルパートナー 仲川様

スピード重視で成約!福岡空港で交わされた譲渡契約の舞台裏


- 印象に残っているエピソードについて教えていただけますか?

 印象に残っているエピソードとしては、買主候補者様が複数いた中で、売主様がスピードを重視されており、実際にフットワークの軽い買主様が最終的に成約に至ったことです。
 当時、売主様と私は福岡の医療法人と商談のために現地へ向かったのですが、その移動中に関西の買主様から「すぐに譲渡契約を結びたい」との連絡が入りました。そこで、福岡空港に到着後すぐに、買主様から送られた契約書をプリントアウトし、売主様が実印を押し、すぐに返送するという形で手続きを完了させました。結果として、福岡の医療法人との商談は実現せず、謝罪のためだけに訪問し、最終的に関西の個人の買主様が迅速に意思決定され、譲渡契約が進みました。
 スピード感のある意思決定の大切さを目の当たりにし、非常に印象に残っております。


売主オーナー様が語る「価格とスピード」が満足度を高めたM&A

- 売主のオーナー様が最も満足されたのはどのような点だったのでしょうか。

 売主様が特に満足された点は、大きく2つあります。1つは、譲渡価格です。クリニックのスケルトン返却に伴う原状回復費用以上の譲渡益が得られたことは、大きなメリットでした。もう1つは、スピード感です。迅速に買主様を見つけ、短期間で成約まで至ったことで、売主様にとって負担の少ないM&Aとなりました。
- オーナー様とのアフターストーリーがございましたら、教えてください。
仲川様: 売主様は、売却前、東京23区内の個人経営の歯科クリニックと、実家近くの医療法人のクリニックの2つを経営されており、行き来に時間と労力がかかられていました。その結果、両方の経営が中途半端になってしまうという課題を抱えていました。
 今回の譲渡により、東京23区内のクリニックに100%集中できる環境となりました。その結果、売上が順調に伸び、患者数も増加し、安定した経営が実現されております。現在は経営に専念できることで、より質の高い診療を提供でき、非常に満足されていると伺っております。

可能性を広げる医療法人格譲渡!M&A成功へのメッセージ

- M&Aをご検討されている方々へアドバイスをお願いします。

 医療法人格での譲渡が可能であることを知らない医師の方もいらっしゃいます。このように、医療法人格だけでも譲渡は可能です。クリニックと一緒に譲渡する一般的な場合も含めて、様々な部分での譲渡ができることをご理解いただいた上でご相談いただければ、様々なスキームのご提示をさせていただくことが可能です。ぜひ、よろしくお願いいたします。