譲渡額
~1億円
売上高
非公表

クリニック業界の事例

後継者不在「内科クリニック」の事業譲渡

エリア
関東
オーナー
60代
売却検討理由
後継者不在
スキーム
事業譲渡

仲川 康彦

株式会社サスガキャピタルパートナー

本案件は、千葉県内で個人経営されている内科クリニックの事業承継を通じて、地域医療の継続を実現した成功事例です。売り手様は後継者不足と立地の制約という課題を抱えていましたが、買い手様との相性や双方の信頼関係を構築することで、スムーズな譲渡を達成しました。また、遠隔地にお住まいの買い手様を全面的にサポートし、融資調達や引っ越しといった実務面でもサポートを提供しました。この結果、患者様やスタッフへの影響を最小限に抑えつつ、売り手様・買い手様ともに満足度の高い結果を生むことができました。地域医療の未来を担うM&Aの意義が凝縮された案件だったと思います。

内科クリニックのM&A:地域医療継続を目指して

-ディールの概要を教えてください。

売り手様は医療収入約8000万円規模の、千葉県内で個人経営されている内科クリニックです。買い手様は山口県の医療機関に勤務されている勤務医の先生で、双方が個人事業主の案件でした。

売り手オーナーの課題と不安:後継者不足と立地の制約

-売り手のオーナー様は、どのような不安や課題を抱えておられたのでしょうか。

売り手の先生は60代後半で、まだお元気ではありましたが、 将来を見据えて事業譲渡を考えていらっしゃいました。奥様もお医者様で眼科を経営されていたのですが、一足先に事業譲渡に成功されておられました。

ご夫婦のご子息様もお医者様としてご活躍されていましたが、近年のクリニックではよくあるように、ご子息には後を継ぐ意思はありませんでした。そのため、親族内承継はできず、後継者がいないことが課題となっていました。このクリニックは地域になくてはならない存在の医療機関となっており、地域医療を継続するために後継者を探したいということで、私どもにご依頼をいただきました。
 
M&Aに際して最も心配されていたのは、買い手が見つかるかという点です。クリニックが駅から離れた立地であったため、大きな不安を感じておられました。しかし、私どもで診療圏などの優位性を打ち出してアプローチしたことにより、お陰様ですぐに複数の買い手候補様が手を上げてくださいました。

遠隔地の壁を越えて:買い手とのマッチング成功の鍵

-売り手様が抱える不安や課題に対して、どのようなアプローチをされましたか。

売り手様は消化器内科のクリニックだったのですが、私どもの過去のディールの経験から、独立開業志向があり、内視鏡検査ができるクリニックを探している先生が複数おられることを把握していました。、その中でも、今回はエリアにこだわらないお医者様の方にお声がけをさせていただき、山口で勤務されている先生に関心をお持ちいただきました。 

トップ面談の際は一度現地にお越しいただいたのですが、遠隔地ということもあり対面でのやり取りを続けるのは難しい部分もありました。そこで、以降のやり取りについては私が間に入り、買い手の先生に代わって対応いたしました。

例えば、M&Aに伴い必要となる引っ越しのために近隣の不動産物件をご紹介するなど、遠隔地ゆえに買い手様のネックとなる部分は全てサポートいたしました。その結果、買い手様には円滑に検討を進めていただけました。

また、売り手様のクリニックは利便性の高い駅近の立地ではなかったのですが、薬局が建てた医療モールのようなビルに入居されており、隣には歯科医院もありました。20年にわたって運営されていたことから、患者様が地元に根付いてるという優位性もありました。さらに、首都圏や都内に比べて賃料が比較的リーズナブルで、売り上げに対する利益率も高く、経営も安定していました。そこで、新規開業される先生にとって、承継した日から売り上げが立ち、安定的に収益が見込めるクリニックである点を訴求したところ、大きな関心を持っていただくことができました。

もう一つのポイントとしては、売り手の先生は患者さんを集めるためにマーケティングなどを一切行っていませんでした。そのため、承継後にウェブサイトを構築するなど集患体制を整えることで売上を伸ばす余地が十分にある点も、訴求力のある要素になったと考えています。

この案件で最も難しかったのは、買い手様と売り手様との物理的な距離が離れていた点です。双方を上手くつなぐために、様々な部分でサポートをいたしました。

また、買い手の先生は譲渡代金や弊社への成功報酬など、M&Aに必要な費用は100%銀行様からの借り入れで賄う予定でおられましたが、中国地方にお住まいだったため関東圏の金融機関とは全くお付き合いがありませんでした。そのため、私が金融機関を回り、入口の部分から融資のお手伝いもさせていただきました。そして、複数の金融機関でコンペをした結果、100%フルローンで運転資金も含めて約1億円を調達することができました。資金調達も含めてフルサポートさせていただき、少し手間はかかりましたが、買い手の先生にとっては非常にスムーズにM&Aを進められたのではないかと思います。

サスガキャピタルパートナーズ 仲川 康彦氏

-M&Aが成功した要因は、どこにあると思われますか。

1つ目は、この案件に限らず言えることですが、売り手様と買い手様の相性が良く、最初のトップ面談の段階から双方が互いにリスペクトを感じていた点です。 双方が「この人にぜひ承継してほしい」「先生の診療のやり方は非常に尊敬できるので、ぜひ引き継ぎたい」とおっしゃっていました。また、承継にかかる手続きなども含めて、売り手の先生が買い手の先生を全面的にサポートしてくださり、良好な関係を築けたことが成功の最も大きな要因だったと思います。

2つ目は、買い手の先生が遠隔地にお住まいであったため、ご自身で動けないところを、私が間に入ることで円滑に進められた点です。保健所の事前相談も含めて全面的に支援させていただき、買い手の先生には必要な書類を準備いただくなど、事務的な作業を行っていただくだけで、 譲渡まで円滑に進めることができました。

M&Aが生んだ満足と安定:売り手・買い手・患者の調和

-M&Aを行い、 売り手のオーナー様が満足されたポイントを教えてください。

一つは、親子ほど年が離れていたのですが、非常に相性が良く、承継される先生が「この人に承継してもらってよかった」と思える人物であったことです。

もう一つは、患者様を減らすことなく承継ができたことです。買い手の先生には承継の約2か月前から非常勤として勤務いただき、患者様にもお伝えしながら引き継ぎを進めたことで、違和感なく受け入れていただくことができました。

また、売り手の先生は、まだお若くお元気で、引退して療養するような状況ではありませんでした。「譲渡後も週に何日か、非常勤で診療を続けられるとありがたい」というご希望もあり、承継後も週2日診療を続けられています。

さらに、クリニック名も変更することなく、売り手の先生のお名前がついたクリニック名のまま運営をされています。通常クリニック名は変更するのですが、
「そのままを承継したい」という承継された先生のご意向もあり、クリニック名は変更していません。

当然スタッフも変わることなく、売り手の先生も週2日診療を続けているため、患者様からすると「新しく若い院長先生になったんだね」と思う程度で、外形的には何も変化はありません。

売り手様からすると、20年以上続けてきた自分の子供のように大切なクリニックと大事なスタッフを何の違和感もなく新しい先生に引き継ぐことができ、患者様にも混乱が生じることなくM&Aを行うことができました。また、週に2日診療を続けながら、残りの時間はお孫さんのお世話をするなど、充実した生活を送られています。創業者利益も獲得しながら自分の人生も謳歌できる、非常にいいM&Aになったと思っています。

-最後に、今後M&Aを考えていらっしゃるクリニックの売り手様へアドバイスをお願いします。

クリニックを買いたい先としては、勤務医の先生や医療法人で分院展開を目指す法人など様々あります。私の経験上、お相手の先生、つまり管理医師になられる先生が、自分と非常に考え方が近しく患者様に対しての思いなど考え方に共感できる先生であるケースは極めて上手くいっています。

事業譲渡を考えておられるクリニック様は、単に「高く売れる」「早く売れる」ということよりも、地域医療機関の担い手として、患者様あるいはスタッフの雇用を守ることも含めて、ご自身が運営されてきたクリニックが承継後も発展していくことを1番に望まれていると思います。そういう意味では、最初のトップ面談の際に、買い手の先生のお考えや素養をしっかり見極めていただくことが最も大事だと思います。

私どもは、売り手様の思いをしっかり理解した上で、 売り手様にも共感いただける考えや思いをお持ちの買い手様をご案内しています。正直なところ、手続きは誰が行っても同じ部分ではあるので、入り口部分のお相手の見極めをきっちりされることが重要だと思います。