本件は、宅建業者である当社の強みを活かせた事例で、特に印象に残っています。売り手様は、20代の頃から70代まで50年近くにわたり、不動産業をお一人で営んでこられました。すでに引退を決意され、事業も少しずつ縮小されていたタイミングで、「どなたかに事業を引き継いでもらえれば」とご相談をいただきました。そこで私たちがご紹介したのが、全く異業種であるWeb広告などインターネット分野に強みを持つ買い手様です。業種も経験も全く異なるなかで上手くマッチングし、成約へとつながりました。
ご相談をいただいた際、売り手様が強く懸念されていたのは、M&A後の“自身への悪影響”でした。当時はちょうど、買い手の不正行為により売り手が損害を被るといったM&Aをめぐるトラブルが、報道などで頻繁に取り上げられていた時期でした。こうした影響もあり、「自分にも何か悪影響が及ぶのではないか」「きれいにすべてを手放したい」という思いを強くお持ちでした。
本件では、とにかく“1秒でも早く対応する”ことを心がけていました。というのも、売り手様が不安を感じる時間が長くなるほど、どうしても悪い方向に思考が傾いてしまうのではないかという危機感があったからです。普段以上にスピードを意識し、ご連絡をいただいたら即座にお電話を差し上げ、背景の確認やヒアリングを行ったうえで、「このように解決しましょう」と具体的なご提案をするように努めていました。 本件において、1時間どころか、30分以上連絡を放置したことはなかったと思います。それほど“即応性”を重視していました。
最も印象的だったのは、買い手様が非常にスピーディーにご対応くださったことです。単に依頼事項に対して素早く対応するだけでなく、売り手様の背景やご事情を丁寧に汲み取り、対応してくださいました。そうした姿勢が、結果として売り手様からの信頼にもつながったと感じています。
今回の案件が成功した大きな要因の一つは、私たちが”宅建業者”であるという点です。実は本件は物件のオーナーが売り手様だったため、賃貸借契約を引き継ぐにあたり、”売主目線”ではなくて、”物件オーナー目線”で今後の取引を考える必要がありました。さらに、買い手様が不動産業は全くの未経験だったこともあり、売り手様はその点に少なからず不安を感じていらっしゃいました。こうした課題や不安に対しては、私たちが”宅建業者”だったからこそ、寄与できた部分が非常に大きかったと思います。
売り手様にとって最もご満足いただけたのは、「すべてをきちんと手放せた」という安心感だったのではないかと思います。「譲渡後も責任が残るのではないか」といった不安が解消され、安心して譲渡できたことが大きかったのではないでしょうか。
成約後、賃貸契約の締結も問題なく完了し、その後の契約関係も非常にスムーズに進められました。現在、成約から約3〜4か月が経ちましたが、現在はアドバイザーというよりはコンサルタントとして、引き続き週に1〜2回のペースで買い手様の不動産事業を支援しています。M&Aをきっかけに生まれたご縁は、今では「不動産業をどう拡大していくか」という成長戦略のフェーズにまで発展しています。
近年、M&Aに関するネガティブなニュースが多く、不安を感じている経営者の方も少なくないと思います。ただ、進め方や体制、関わる人たちの姿勢によって、その不安はきちんと解消できると私は考えています。実際、M&A支援機関の中でも、「ガイドラインを整備し、適切に進めていこう」という動きが着実に広がっており、環境は確実に整いつつあります。不安を抱えたまま進めるのではなく、疑問や懸念をしっかりと相談しながら進められる時代になっています。ぜひ安心して、まずはご相談いただければと思います。