売り手様は介護事業を営んでおりました。具体的には、訪問介護、居宅介護支援事業、福祉用具のレンタル事業など、複数の事業を展開されており、稼働している事業は非常に順調でした。売却理由としては、過去に大規模な介護施設を建設し、その際に銀行から借り入れを行いその事業へ投資をされたのですが運営がうまくいかず、過大な借り入れだけが残ってしまったことによるものでした。現在、事業自体は安定して黒字で運営されているものの、債務の返済が困難な状況にあり、スタッフや利用者様にご迷惑をかけずに事業を引き継ぐ方法を考えられておりました。そのため、売却を決意されたということです。
一方、買い手様は関西で20店舗以上を展開されている調剤薬局の会社でした。調剤薬局業界は、以前は大規模病院の門前の調剤薬局が高い収益性を誇っておりM&Aも活発でしたが、近年の調剤報酬改定により、収益環境は厳しくなってきております。その中で、買い手様は在宅調剤の分野に広げていきたいという戦略をお持ちでした。今回の案件は、エリア的にも重なる部分があったため、買い手様が関心を持たれました。
課題として最初に挙げられたのは、銀行からの同意を得られるかという点でした。売り手様は、過大債務を抱えている状況だったため、単純に事業譲渡を進めると銀行側から詐害行為として差し止め請求を受けるリスクがありました。そのため、私の方では、お引き受けする大前提として銀行の同意が得られるかどうかを確認する必要がありました。売り手様には、取引銀行の担当者に対して、現状を説明し、また継続している事業だけでも残したいというご意向を伝えた上で、事業譲渡の検討を行っても良いかについて確認をお願いしました。
その結果、各銀行の担当者からは「問題ない」との回答をいただき、アドバイザリー契約を締結することになりました。
介護事業でしたので、買い手候補企業としてもまずは同業他社が1つの候補として挙げられました。さらに、介護福祉用具のレンタルも行っていらっしゃったため、車椅子や介護ベッドなど、関連する機器や設備を扱う業界も候補に挙げました。また、異業種でも介護事業を行っており、エリアが広がるような会社も選択肢として候補にあげました。
一番印象に残った点、私自身が驚いた点は、異業種の調剤薬局の会社が買い手として現れたことです。正直、私はそのような展開を全く想定しておりませんでした。しかし、同じ関西で調剤薬局を展開している会社が、「ぜひこの事業に参入したい」とおっしゃって、ご検討を始められたことが、この案件の最大のポイントとなりました。また、この事業譲渡スキームに関しては、売り手様が破産を覚悟することが前提でした。 「事業譲渡でスタッフと利用者様は守ることはできるかもしれませんが、ご自身が破産される覚悟はお持ちでしょうか?」という点も事前に何度か確認させていただきました。
当初から売り手様はご自身の状況が苦しいながらもスタッフと利用者様を最優先に考えておられ、その信念が全くブレないことに私としても誠実さを感じ、必ずクロージングまで導きたいという思いを強くしておりました。
まずは、買い手様が展開している調剤薬局の店舗と、売り手様が展開している介護事業のエリアが重複している点が挙げられます。次に、売り手様の事業は、居宅介護支援事業において多くのケアマネージャーを抱えておりました。その事業が調剤薬局とのシナジーを生む可能性が高いと感じていました。さらに、事業自体が黒字だったことも重要なポイントでした。
お話しした通り事前に銀行の同意を得た後、買い手様から相応の価格条件をいただき、事業譲渡で進めていたのですが、事業譲渡契約の直前に再度銀行にお話しをさせていただいたところ、とある銀行から「事業譲渡は認められない」との回答があり、一旦M&Aのプロセスが止まってしまいました。
その後、中小企業活性化協議会に話を持ち込み、活性化協議会を中心に、債権者である銀行にも参加していただき、弁護士や会計士主導のもと再度協議を進めることになりました。そのタイムラインは非常にタイトで、約2か月程で全てを進めなければいけない状況でしたが、活性化協議会側の弁護士や会計士に無理をお願いし、何とか進めることができました。結果、最終的には会社分割というスキームでクロージングに至りました。
あとは、M&A対象の事業自体が本当に順調に回っていたという点が、買い手様にとって一番の安心材料だったと思います。また、売り手様が売却後も継続して関わって協力してくださるという点も大きな要因でした。 売却後、売り手様はスタッフの動揺を防ぐために、今まで通り関与するという話をスタッフに伝えていただきました。その結果、特に動揺も起きずに事業譲渡を行うことができました。この点もひとつの要因だと考えております。
譲渡直後にお話させていただいた内容としては、売り手様がとにかく安心されていました。長年一緒に頑張ってくれているスタッフと利用者様に迷惑をかけずに経営基盤がしっかりとした買い手様の会社に引き継げたことで、常に資金繰りに苦労していた不安からは完全に解放されたからだと思われます。
あとは、活性化協議会主導の検討の末、最終的に売り手様は自己破産を免れたことも良かったと思います。 今も元気にされているというお話は聞いております。売り手様自身も、譲渡した介護事業に関わりつつ、別のコンサル的な仕事もされており、2足のわらじを履きながら新たなスタートを切って元気にされているとお伺いしております。
この案件から言えることは、過大な債務により会社全体が苦しい状況だったとしても、黒字で回っている事業があれば、第2会社方式というスキームを取ることができるということです。 黒字の事業、スタッフの皆さん、お客様を元気な会社に引き継げる可能性は十分にあるため、なるべく早い段階で身近な専門家の方にご相談をしていただきたいと思います。
株式会社サンアドバイザリー
株式会社サンアドバイザリー
株式会社サンアドバイザリー
売手様は複数の介護事業を黒字経営していましたが、過去の過大な債務により追加投資が難しい状況にあり、事業の選択と集中に関してご相談にいらっしゃいました。
一方、買手様は調剤薬局を約20店舗展開しており、今後の市場拡大が見込まれる在宅調剤分野への参入のため介護事業との連携を検討していました。
双方の展開するエリアも重なり早期に合意はできたものの、売手様の債権者への対応を慎重に進め、第二会社方式による事業再生型スキームを選択し、約半年間かけて無事にクロージングに至りました。