譲渡額
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売上高
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食品業界の事例

年商100億円企業を動かした“信頼”――難攻不落の経営者が心を開いた3年越しのM&A

エリア
関東
オーナー
非公表
売却検討理由
事業の成長発展
スキーム
事業譲渡

徳永 洋亮

中之島キャピタル株式会社

個性的な経営者の本音に寄り添い、3年越しで信頼関係を構築。事業だけでなく“想い”を引き継ぐM&Aは、心と心が通じ合ってこそ実現できるものだと再認識させられた案件でした。

100億円規模の一次産業会社を上場企業に売却した舞台裏とは?

- 案件の概要について教えていただけますでしょうか。

業界は一次産業で、売り手の企業様は年商100億円弱の規模でした。買い手の企業様は、食品関連の卸業を営む上場企業様で、こちらは年商100億円以上の規模を誇っておりました。買い手様側は、「日本の優れた商材を海外に広めたい」という目的をお持ちであり、M&Aを検討されておりました。 一方で、売り手の企業様は、ある地域に特化した特殊な商材を取り扱っており、日本国内の同業界でも高い知名度を有しておりました。ただ、売り手の経営者様は、非常に個性的なご思想をお持ちであり、これまでも複数のM&Aアドバイザー企業様がご提案を行ってこられましたが、いずれも話が進むことはありませんでした。そのため、私たちが取り組んだ際にも競合となる企業様が複数存在する、難易度の高い状況でした。


“提案は断られ続けた”難攻不落の経営者にどう切り込んだのか? 信頼構築のリアル

- そのような難しい案件に対して、どのようにアプローチされたのですか?

他のアドバイザー様がなぜうまくいかなかったのかを確認するためには、もう「潜り込む」しかないと考えました。地方のかなり奥地にあるスナックや飲食店に、連日ご一緒させていただき、時には深夜3時までご一緒させていただきました。そうした時間の中で対話を重ねていく中で、ある重要なことが分かってまいりました。それは、経営者様にはお子様がいらっしゃらず、ご自身の会社そのものがアイデンティティの象徴となっていたことでした。また、その方は三代目の経営者様であり、「本当にこの会社を他者に託してよいのか」という葛藤と、「とはいえ子どもがいない」という現実との間で、非常に深いジレンマを抱えておられました。 そのような心理状況の中で、他のアドバイザー様が提案する金額や表面的なシナジーの話では、心に響くことはなかったのだと感じました。経営者様は「自分自身の悩みを本質的に理解し、それに寄り添ってくれる存在」以外の言葉は、信用するのが難しい状況でした。もちろん、お酒をご一緒したから信頼を得られたという単純な話ではありませんが、ご家族様の背景や、奥様との関係など、深く踏み込んで理解させていただいたうえで、「この経営者様がご親族や周囲の方々にも誇れる選択をすること」を意識して取り組みました。そのため、「奥様にぜひお会いさせてください」とお願いし、ご親族様にもご面談の機会を設けていただきました。取引先様とは直接お会いすることは叶いませんでしたが、どのような事業関係性を築かれているのかを丁寧にヒアリングし、買い手様に対しては「こうした価値観を重視する経営者様です」と事前に丁寧にお伝えいたしました。また、私は経営者様に対して、「1社とだけ交渉するのはやめましょう」とご提案いたしました。少なくとも5社、6社、7社と、幅広い候補の中から「この企業様であれば本当に悔いがない」と感じられるお相手様を選んでいただければ、私が全力で背中を押しますとお伝えしました。このご縁は、単なる一時的なものでなく、5年、10年と付き合いが続く関係になることを見据えてのお願いでした。最終的には、約3年間にわたってお付き合いを重ね、トップ面談も7回以上実施いたしました。 その過程で、共通の知人の存在や、買い手様側の過去のM&Aのストーリーなどを通して、より深い相互理解が進みました。さらに、買い手様が描いていた今後の成長構想が、売り手の経営者様が「実現は難しいかもしれない」と諦めかけていた夢に直結するものでありました。それが大きな決め手となり、「ここであれば会社を託せる」とご承諾いただくに至りました。こうして、長年難航していたご縁が、ようやく結実しました。

社長からの一言が示す、心が通じ合ったM&Aの証

- 印象に残っているエピソードについて教えていただけますか?

印象に残っている出来事は、基本合意を結んだ後の出来事です。これは少し珍しいケースですが、買い手企業様の本社に出向き、基本合意の調印を行いました。その帰り際のことです。突然、売り手の経営者様が「このM&A、本当に進めていいのか?」とおっしゃったのです。「徳永、お前は本当にこれを勧めるのか?」と、かなり真剣な口調で問われ、少し口論のような状況になってしまいました。とはいえ、私は冷静に「たとえ今、やめることになったとしても構いません。もしそうであれば、私が先方に頭を下げてお伝えしてきます」とお伝えしました。その言葉で、なんとか思いとどまっていただいたあの瞬間は、非常に緊迫した場面でしたし、今でも強く印象に残っております。その後も、条件面の調整や細かいやり取りで、ぶつかることは多々ありましたが、最終的には話がまとまり、無事に契約調印を迎えることができました。従業員への開示の場にも同席させていただき、普通であれば、開示後は売り手様と買い手様のキーマンたちで飲みに行くことが多い中、なぜかその時は私だけが声をかけていただきました。「徳永、飲みに行くぞ」と。 社長様に“裏の行きつけ”のお店、普段はあまり人を連れて行かれない鉄板焼きのお店に連れて行っていただきました。その夜、いただいたステーキが最高に美味しかったです。ワインも素晴らしくて、食事もお酒もすべてが格別の時間で、本当に記憶に残る出来事でした。

この案件は、本当に難易度の高い案件でした。経営者様が行き場のないフラストレーションを抱えていらっしゃる中で、私自身がそれをどこまで受け止められたかは定かではありませんが、少なからずお役に立てたという意味では、自分自身にとっても大きく成長できたと感じております。今回のディールを進める中で、なぜここまで頑張れたのかを考えますと、その経営者様が私の父親と重なって見えた点が大きかったです。私の父親も個性的で、駄目なことは駄目と叱りつけ、時には怒鳴り散らし、酒も嗜む人間でした。しかし、仕事においてはプロフェッショナルであり、非常に熱心な人間でした。そのような父親が抱えていたであろうフラストレーションと、今回お会いした経営者様が抱えていらっしゃるものが非常に似ていると感じ、そこに向き合いたいという強い想いがありました。M&Aの成約そのものよりも、その経営者様の苦しみを少しでもお役に立ちたい、解決して差し上げたいという気持ちが私の原動力でした。

中之島キャピタル株式会社 徳永 洋亮 氏


“フラストレーションを受け止める存在”が成約の鍵に ー アドバイザーが語る伴走の本質

- 素晴らしいお話を伺い、胸に迫るものがありました。その成功の要因は、まさに今お話しいただいたように、単なるM&Aありきではなく、M&Aアドバイザーという立場を超え、経営者様にとって人生の相談相手のような関係性を築けたこと、そうした立ち位置がポイントになったのでしょうか。

おそらくそうです。アドバイザーという立場はありますが、逆にお客様から教えていただくことも多く、大変学びが多かったと感じております。ただの息子であれば、なぜ息子にお金を払わなければならないのかという話になりますが、専門性を持った存在として、しかし気持ちとしては息子、あるいはそれ以上に寄り添うという想いが湧き上がっておりました。これは銀行員時代も同様で、むしろ難しい融資案件ほど、やりがいを感じ、力を発揮できたように思います。格付けの良い企業様、スプレッドが低い融資案件もありますが、それよりも格付けが難しいお客様に対し、なんとか事業融資を検討し、お客様と共に考えることの方が、世の中の役に立っているという実感が強くありました。おそらく、銀行員時代からそうした考えを持つ先輩方が多く、その方々から教えてもらったことが、私自身のアイデンティティやDNAとして今も残り、それが私を動かしているのかもしれないと感じております。銀行でいうと、もし稟議が通らなかったら大変な事態になります。一度否決された際には、胃が痛くなるような思いでした。お客様は期待を寄せてくださっておりますので、その中で結果を出さなければなりません。そして、結果を出すということこそ、本当に醍醐味だと感じております。

- お客様との関係性が、会社ではなく個人として「この人のためにやりたい」という強い想いが、難しい局面でも原動力になるのでしょうか。

その通りです。銀行員時代の話ばかりで恐縮ですが、当時は本来禁止されておりましたが、ゴルフを教えてくださるお客様がいらっしゃり、ゴルフクラブをいただいたこともありました。銀行員としては決して許されない行為ですが、そうしたお客様ほど、格付けがあまり良くない、要注意先の一歩手前といったケースが多かったように思います。これは狙っていたわけではないかもしれませんが、お客様と本音で話し、同じ時間を過ごす中で、「自分自身の事業を残したい」というお客様の強い想いを伺う機会が多くありました。そのような方を守りたいという気持ちが常にありましたが、銀行のルールの中では、守りきれない部分もありました。しかし、M&Aの局面においては、自分自身が経営者様でもあるという立場から、銀行員時代に成し遂げられなかったことが実現できる、そういった点が今回もありました。

- 改めて、オーナー様が最も満足された点はどのような点だとお考えでしょうか。

僭越ではございますが、誰よりもオーナー様に寄り添い、伴走しきれた点が、ご満足いただけた最大のポイントだったのではないかと思います。技術的な側面や株価、あるいは専門的な法的不備をどのように是正するかといった点もありました。しかし、最もご満足いただけたポイントは、言葉にすると少々偉そうに聞こえてしまうかもしれませんが、オーナー様が抱えていらしたモヤモヤとしたフラストレーションを受け止めることができた、という点に尽きると思っております。

- M&A後のオーナー様とのアフターストーリーについても教えてください。

M&A後、株価は非常に上がり、1.5倍以上になったという意味では、オーナー様にとっても大変良かったというお話があります。また、オーナー様からのご紹介で、会社の譲渡を悩んでいらっしゃる会社様がいらっしゃるとのことで、私を信用できるアドバイザーとして、会社売却を直接交渉していただくようなことも1件や2件ではなく、何社もあります。現在も年末の飲み会の場にも呼んでいただいております。

- M&Aをご検討されている方々へアドバイス・メッセージをお願いします。

M&Aは確定戦略ではありません。そのため、「M&Aしかない」と思い込むことは、失敗に繋がりかねませんのでご注意ください。M&Aによって実現すべきものは、会社様の現状よりも明るい未来であると私は考えております。それが実現可能か否かの判断は、会社の経営者様に委ねられております。従業員様の行く末も事業の存続も発展も、その判断に大きく左右されます。だからこそ、心から信頼できると確信できるアドバイザーを選んでいただきたいと思います。