親族内承継×M&A】70代社長が選んだ新たな事業承継の形
- 案件の概要について教えていただけますでしょうか。
2019年に埼玉県の金属製品製造業で進めさせていただいた、売り手様と買い手様が親族関係にある事業承継の案件です。事業承継という性質上、典型的な売却・買収ではなく、売り手様も買い手様も同業である金属製品製造業の関係者での承継となりました。
- 売り手様と買い手様のご年代をお伺いしてもよろしいでしょうか。
売り手様は先代の社長様で、70代の方でした。一方、買い手様は、50代のご長男と、40代のご次男が譲受者となりました。
「会社を継ぎたいけど規模が大きすぎる」― 後継者の不安を解決したM&A戦略
- オーナー様が抱えていた不安、課題、M&Aを検討された背景はどのようなものだったのでしょうか?
オーナー様には、事業承継を進めたいというお気持ちが強くございました。後継者はいらっしゃったものの、会社全体を引き継ぐ覚悟が十分に固まっていない状況であり、どのように事業承継を進めるべきかという点が、売り手であるオーナー様の最大の不安であり、課題でした。
- M&Aに対してどのようなアプローチをされたのか教えていただけますか?またオーナー様の不安や課題に、アドバイザーとしてどのようにご対応されたのでしょうか。
売り手様は2つの金属製品製造事業から成り立っておりました。そこで、最初、長男様または次男様に2つの事業をそのまま引き継いでいただけるよう説得を試みました。しかし、最終的に難しいとの結論に至りました。
そのため、次の選択肢として、2つの事業をそれぞれ分割し、会社の規模をコンパクトにする形での事業承継をご提案いたしました。結果として、長男様と次男様の双方がこの案に関心を示されました。そこで、M&Aの手法として「会社分割」を活用し、2つの事業をそれぞれ独立させた2つの会社として整理いたしました。そのうえで、それぞれの事業を長男様と次男様に引き継いでいただきました。
- 印象に残っているエピソードについて教えていただけますか?
当初は、M&Aを活用しなくても済むのであれば、そのままの形で事業承継を進めたいというご意向がありました。そのため、後継者である長男様、次男様のどちらかが会社全体を引き継ぐ形で承継できないかを説得する形でお話させていただいたことが一番難しかった点でした。
一方で、最終的にM&Aのスキームを活用することで、難しいと考えていた親族内での事業承継を実現できたことが非常に印象に残っております。
M&Aを活用すれば事業承継はもっと柔軟に! 成功のカギとは?
- 買い手様は元々M&Aを検討されている訳ではなかったのでしょうか。
おっしゃる通りです。正確には、今回のケースでは「M&Aの買い手」ではなく、事業承継者としてのご長男様、ご次男様という立場での承継となりました。M&Aを活用するという発想は元々ありませんでしたが、結果として親族内承継を実現する手段としてM&Aが有効であるとお話させていただきました。息子様たちも「親の会社を継ぐことができるのであれば、ぜひ継ぎたい」とのお考えを持たれていたため、M&Aを活用することで、最終的にスムーズな事業承継が実現できたことが、本案件の大きな特徴だと考えております。
- この案件が成功した要因は、どのような点になるのでしょうか。
停滞していた状況に対し、M&Aのスキームを導入することで打開策を見出すことができたことが成功要因と考えています。逆に言えば、M&Aのスキームと案件が抱えていた困難な状況がうまくマッチしたことが、成功の要因とも言えると思います。
- 事業を受け継がれたご長男・ご次男が最も満足されたのはどのような点だったのでしょうか。
まず、オーナー様の立場では、ご子息が会社を引き継ぐことができた点が、最も満足された点だったと考えています。また、ご長男様、ご次男様にとっても事業承継を、可能な規模で実現できたことにもご満足いただけたのではないかと思います。実際にお二人からそのようなお話もいただいております。
兄弟それぞれの強みを活かす! 事業分割後の相乗効果とは?
- オーナー様とのアフターストーリーについて教えてください。
本件では会社を分割し、2つの企業として事業承継を行いました。専門的な話になりますが、もともとこの企業様は金属製品の製造業を営んでおり、事業としては「亜鉛合金を用いた事業」と「アルミ合金を用いた事業」の2つに分かれておりました。それぞれの事業を分割し、ご長男が亜鉛合金の事業、ご次男がアルミ合金の事業を承継されました。しかし、亜鉛合金もアルミ合金も使用される分野は異なるものの、自動車部品という共通の業界で活用されるケースが多いです。そのため、会社を分割した後も、お互いの事業を補完し合いながら、新しいマーケットを開拓されております。 例えば、長男様がお取引されている自動車部品の納入先に対し、次男様のアルミ合金事業もご提案できるようになりました。また、逆に次男様が取引されていた顧客に対して、長男様の亜鉛合金をご提案する機会も生まれました。このように、一度会社を分割したものの、事業の進め方としては相乗効果を生み出しながら継続されている点が、本件の成功を感じるアフターストーリーだと考えております。
事業承継を考えるオーナー様必見! M&Aを活用するメリットとは?
- M&Aをご検討されている方々へメッセージをお願いします。
事業承継は、一般的に「親族内承継」「親族外承継」「第三者承継(M&A)」の3つの方法が考えられることが多いです。しかし、親族内に後継者様がいる場合でも、何らかの問題があり、承継が進まないケースも少なくありません。
そのような場合、M&Aのスキームを活用することで、親族内承継を実現できる可能性もあります。また、従業員への承継においても、一度M&Aのスキームを挟むことで、より円滑な承継が実現できることもあります。必ずしも、事業を即売却する必要はありません。後継者がいるものの、どのように承継を進めるべきか悩まれている方におかれましても、M&Aのスキームを活用した選択肢についても一度ご検討いただくことが有益かと存じます。その点を含めて、ぜひ、お話を伺えればと思います。
本案件は、親族内承継を希望しながらも、事業規模の大きさや引き継ぎ方法に課題を抱えていたケースでした。当初は通常の事業承継の形を模索しましたが、長男様・次男様ともに全事業を引き継ぐことには不安がありました。そこで、M&Aのスキームを活用し、事業を分割することで、それぞれが無理なく承継できる体制を整えることができました。
結果として、オーナー様はご子息への承継を実現でき、後継者であるご兄弟も自分たちのスケールに合った形で事業を継ぐことができました。また、会社分割後も兄弟それぞれの事業が連携し、相乗効果を生み出していることは大変印象的です。
M&Aは単なる「会社の売買」ではなく、事業承継を柔軟に実現するための有効な手段となり得ます。特に親族内承継においても、規模や経営の形を見直すことで、新たな可能性が広がることを本案件が示しています。事業承継に課題を感じているオーナー様には、ぜひM&Aの活用も選択肢の一つとして検討していただきたいと思います。