本件は、塾業界同士の譲渡ではなく、買い手様が異業種という特徴的なM&Aでした。売り手様は比較的お若い方で、コロナ禍で本業がうまくいかなくなったため、つなぎとして学習塾を開校されました。しかし、コロナが落ち着いてからは本業が再び忙しくなり、学習塾の運営が難しくなったため、譲渡を検討されるようになりました。規模としては売上約2,500万円で、月平均利益は400万円、好調時には600万円を超えることもあるなど、実績のある塾でした。買い手様は教育業界で第二の人生を歩みたいと考えている、社会人経験の豊富な方でした。
売り手様は、本業が忙しくなることを見越して、教室の自走化を進めていらっしゃいました。しかし、信頼していた教室長が体調不良により急遽退職することになり、「このまま教室を維持できるのか」「新たな人材を採用できるのか」「今のタイミングで譲渡すべきかどうか」といった点に大きな不安を感じておられました。また、塾をコロナ以降に開校したため運営年数が浅く、売上の再現性が見えにくい点も課題となっていました。
売上の再現性に対する不安がある中で、買い手様から低く見積もられたり、不安をぶつけられたりする可能性があることを、事前に売り手様へお伝えしていました。そのうえで、買い手様に納得していただくため、面談時には売り手様ご自身の言葉で、「いかに再現性があるのか」、あるいは「自分の力による部分」と「そうでない部分」を言語化して説明していただくようお願いしていました。こうした事前の準備をしっかり行っていたことで、面談ではより説得力のある説明ができ、買い手様にご納得いただけたと思います。
印象に残っているのは、買い手様が社会人としてのご経験が豊富で数字に強く、売り手様の良い点を積極的に見つけては評価し、褒めてくださったことです。そのおかげで売り手様も非常に前向きになり、スムーズに話が進んでいきました。
例えば、将来的に多教室展開する際は売り手様がサポートするなど、「長期的な関係性を前提としたご提案」をできたことが、成功の大きな要因だったと感じています。また、費用やコスト面に関しても双方で情報を開示し合い、長い付き合いを見据えてお互いに譲り合う姿勢を持ちながら進められたことも、トラブルなくスムーズに進行できた要因の一つだと感じています。
譲渡後、売り手様は本業に戻られましたが、落ち着いたら第二教室や第三教室を一緒に作っていくことも検討されています。買い手様は塾経営のご経験がなく、売り手様のノウハウを活かした協業の可能性が見えたことが、満足につながったのではないかと感じています。
本来、売り手様は譲渡後に本業に専念される予定でしたが、現在も月に1回ほど打ち合わせを続けており、良好な関係が続いています。塾の運営課題について相談したり、かつて一緒に働いていたアルバイトの近況を聞いたりと、さまざまな話題でコミュニケーションを取っています。今後、多教室展開を行い、お二人で法人化する可能性もあるのではないかと感じています。
教育業界出身として、塾を譲渡する際に「大切な生徒を手放す感覚」があるのはよく理解できます。ただ、別の塾が引き継ぐことで、少しでも教育のイズムが残り、通っていた生徒が引き続き学べる場を残せることは、価値があると感じています。だからこそ、「譲渡=引け目」とは考えず、前向きにチャレンジしていただきたいと思います。
株式会社インフィニティライフ