本件は、いわゆる“塾同士”のM&Aでした。売り手様は個人塾を長年運営されてきたご高齢の方で、引退をご決断されたものの、後継者がいないということでご相談をいただきました。教室数は3つの昔ながらの集団指導形式の塾で、地域に根ざして30年以上にわたって運営されており、地元の方からも愛されていました。年間の売上規模は約1,500万円です。買い手様、学習塾を複数展開されている方でした。
最初のご相談の際に、オーナー様は「塾って、そもそも売れるの?」と不安を口にされていました。M&Aはテレビの中の世界の話だと思っており、個人事業主が塾を譲渡するという発想自体がなかったようです。また、30年以上にわたって運営されていて、中には親子2代、3代にわたって通ってくださる方もいらっしゃり、生徒や保護者とは親戚以上の関係を築かれていました。そのため、「誰に引き継ぐか」には強いこだわりをお持ちでした。売れることが一番ではあるものの、納得できる落としどころを見つけられるかという点に、不安や課題を抱えていらっしゃいました。
まずは「塾でもM&Aができます」と丁寧に説明し、不安を一つずつ取り除くところから始めました。また、こだわりの部分に関しては、マッチングによって解決できると、過去の経験則からわかっていました。そこで、「こだわり」を明確にするために、丁寧にヒアリングを重ねていきました。買い手様に関しては、弊社ではポータルサイトでの募集に加え、ホームページやLINE公式アカウントを通じたコミュニティ形成も行っており、どのような買い手様がいらっしゃるかはある程度把握できていました。その中から、理念や価値観が近い方を慎重に選定し、社内で何度も検討を重ねました。さらに、すぐに売り手様にご紹介するのではなく、事前に買い手候補と打ち合わせを行い、「どのように伝えれば、売り手様に納得いただけるか」をすり合わせた上で、ご紹介するようにしました。こだわりの強い方は、第一印象で扉を閉ざしてしまうことも少なくありません。そうした事態を防ぐために、事前の打ち合わせを徹底したうえでご紹介するように努めていました。
印象的だったのは、令和の時代にも関わらず、売り手様は月謝を「月謝袋」で集金されていたことです。さらに驚いたのは、買い手様も同じように月謝袋を使って集金されていました。月謝袋で使う理由も同じで、「子どもたちにお金の重みを知ってもらいたい」という想いからでした。ここまで理念が一致するケースはなかなかなく、こだわりがマッチしたことも、お話がスムーズに進んだ要因の一つであったと感じています。
最大の成功要因は、やはり“理念の一致”にあったと思います。加えて、売り手様の不安をしっかり聞き取り、事前に買い手様とすり合わせを行ったことで、初回の顔合わせが非常にスムーズに進みました。めったにないことですが、その場で「基本合意まで進めましょう」と話がまとまったのも、こうした準備が功を奏した結果だと思います。
「この方になら任せられる」と、売り手様が笑顔でおっしゃってくださったのが印象に残っています。ご自身が30年以上かけて築き上げてこられた塾文化や生徒との関係を、心から信頼できる相手に託せたことに、大きな安心と満足を感じていただけたように思います。
今回は事業譲渡だったため、賃貸借契約の名義変更などのサポートは行いましたが、譲渡後の細かな運営については基本的に買い手様にお任せしています。特別なフォローは行っていませんが、後日、別の案件でお話しした際に「順調にいっている」と聞いて安心しました。
学習塾のM&Aでは、「売れるかどうか」よりも「誰に託すか」が鍵になります。売り手様が大切にしてきた価値観や理念に寄り添える相手を探すためには、丁寧なヒアリングと的確なマッチングが不可欠です。私たちは、そうした思いを汲み取りながら、これからも一つひとつの案件に真摯に向き合っていきたいと思っています。
株式会社インフィニティライフ