買い手様は、足場会社様です。売り手様は総合建設業です。規模感とすると、買い手である足場会社様の年商は約2-3億円、売り手の会社様は年商5億円前後の規模でした。
総合建設業の売り手様は、年齢が70歳近くでした。 従業員様も数十名おり、突然廃業するわけにはいかない状況でした。そのため、従業員様をお取引のある企業様へ再就職のご案内をされるなど、3年前から廃業に向けて段階的に準備を進められておりました。私が売り手様とお会いしたのは、その準備の最終年度にあたるタイミングでした。 売り手様に不安や課題についてお伺いしたところ、廃業に向けて順調に進まれておりました。
売り手様に直接お話を伺った際、実は事業を継続したい、仕事が好きで、まだ働きたいという想いを強くお持ちであることがわかりました。また、誰か事業を引き継いでくれれば、それが一番いいともお話されておりました。会社名を残されたいという想いや、大手企業様との取引口座、入札工事の資格という強みを活かせる方がいればよかったのですが、従業員様がほとんど退職され、資産があるうちに廃業を進めるべきだという結論に達しておられたようです。
アプローチさせていただいた買い手様には、足場工事の特性上、従業員様が活躍できる年齢が短いことや作業自体の危険性も伴うため、雇用を足場工事だけで維持できないという課題がございました。ただ、売上の拡大や事業の幅を広げるお気持ちは強く、「外壁の大規模修繕工事を一式で受注できる体制を整えたい」というご希望をお持ちでした。さらに、入札工事も積極的に獲得することで、足場工事とのシナジー効果を期待されていました。買い手様は、入札工事や大規模修繕を進めるために必要な資格要件が不足しており、その点を補完できる企業様との提携をご希望されておりました。今回売り手様が抱える課題やニーズと、買い手様の事業拡大への強いご要望がマッチングしました。
この案件では、売り手様の財務諸表について簡易的なデューデリジェンスを行いました。ほとんど人がいないこと、廃業に向けて清算を進めている状況だったため、弊社で状況を詳細に分析し収益分解を行いました。その際、社歴が長かったこともあり、私的な資金の懸案、決算書が安定した状態ではない点が課題として浮き上がりました。また、クロージングが決算の1ヶ月前というタイミングだったので、譲渡実行前に決算書を整える必要がありました。売り手様の顧問税理士様と密に連携し、資金の貸し借りの清算や積み上がっていた資本金の減資のお手続きを取り、最終的には、非常にシンプルな貸借対照表(BS)に整理し、お渡しさせていただいたことが印象に残っております。
買い手様の年商が売り手様よりも低く、「小さい企業様が大きな企業様を取り込む」という通常とは逆パターンのM&Aでした。従業員がいる場合、体力的な部分、資金不足の負荷が大きいため、成立が難しいことが多いです。今回成功した最大のポイントは、売り手様が従業員様の再就職を積極的に斡旋されるなど、非常に綺麗に廃業に向けて準備を進められていたことでした。さらに、売り手様には「本当は事業を継続したい」「若い人を教育していきたい」という強い想いがありました。一方、買い手様には、「若い人間を育ててほしい」というニーズがあり、双方の想いが綺麗に合致しました。それに加えて、売り手様の事業内容が買い手様の求めている理想の事業内容だったことが大きいです。
売り手様は土地や建物などの収益不動産もお持ちであり、その一部に事務所を構えられておりました。ただ、建物自体は老朽化が進んでおり、修繕が必要な状況でした。そのため、廃業後には、その物件が空室となり賃金収入が見込めなくなる状況でした。しかし、今回のM&Aによって、買い手様がこの物件を利用することとなり、価格よりも少し安価な報酬料で賃貸契約を結ぶ形となりました。 これにより、売り手様には継続的な賃料が見込め、買い手様は安価で新たな事務所を設けられるという、双方にとって満足度の高い結果が得られたことがご満足いただけたポイントのひとつだと思います。
売り手様は社歴が長かった分、事務所内に非常に多くの荷物が残っており、整理するのにも何十万、あるいは何百万単位で費用がかかる可能性もあるような状況でした。しかし、買い手の企業様は若い従業員様が非常に多く、今回のM&Aも従業員様たちにとって「学ばせてもらえる」「次のステージに進める」と、とても大きなモチベーションになっておりました 。それに加えて、売り手様はご年輩だったこともあり、若い人たちと接することが本当にお好きでした。そのため、「まずは事務所を綺麗に掃除するところから始めよう」といった形でスタートし、綺麗な事務所になった結果、活気に溢れた環境が生まれ、売り手様も元気を取り戻したように感じました。
相続や事業承継、会社の出口戦略については、経営者様が考えておく必要がある重要な要素だと思います。会社の出口には、親族内承継、社内承継、外部承継の3つの選択肢があります。さらに廃業という選択肢しかありません。 結局、この3つ、あるいは4つの選択肢の中から選ぶことになります。売上や利益があり、従業員様がいれば、企業には必ず価値があると考えておりますし、そのような企業は市場で求められております。反対に、売上がなければ廃業を検討します。ただ、廃業も一つの選択肢として考えに入れつつも、譲渡を希望する企業様が必ずどこかに存在するはずです。譲渡を検討されている方には、譲渡と廃業の2つの方向性を同時に考え、数年かけて取り組まれることをお勧めします。
本件では、売り手様が綿密に廃業準備を進めていたことが、結果的にスムーズなM&A成立につながりました。事業承継には様々な選択肢がありますが、事前の準備が整っていれば、より良い条件での譲渡が可能になります。
また、売り手様の「本当は事業を続けたい」という想いと、買い手様の「事業を拡大したい」というニーズが合致したことも成功の鍵でした。M&Aは単なる引継ぎではなく、双方にとって新たな可能性を生み出す機会になります。事業承継を考えている方には、廃業だけでなく、幅広い選択肢を検討することをおすすめします。