譲渡額
非公表
売上高
非公表

リユース業界の事例

成長の壁を乗り越えるM&A戦略——リユースショップの売却と新たな未来

エリア
関東
オーナー
40代
売却検討理由
後継者不在
スキーム
株式譲渡

永井 秀則

株式会社ジョイントバンク

本案件では、売り手オーナー様が抱えていた成長の壁と、今後のキャリアプランを踏まえ、事業の発展を託せる買い手様を選定することが重要でした。特に、「成長戦略を重視する」という方針を持ちつつも、最終的には価格が大きな決定要因となった点が印象的でした。

M&Aでは、売り手・買い手双方の意向が交差する場面が多々ありますが、最も重要なのは、売却後の事業の成長と従業員の処遇の確保です。そのためには、譲渡の条件だけでなく、買い手の戦略や資金力、PMIの進め方まで総合的に判断する必要があります。

今回の成功のポイントは、①市場成長を見越した迅速なアプローチ、②売却プロセスにおける慎重な判断、③最終的な条件交渉の柔軟性にあったと考えています。M&Aをご検討のオーナー様には、売却の目的を明確にしつつ、現実的な価格設定と慎重なパートナー選定を進めていただくことをおすすめします。

ー案件の概要について教えていただけますでしょうか。

M&Aの対象となったのは、ブランド品を中心としたリユースショップ1店舗を運営する創業歴約7年の法人で、取組形態は株式譲渡です。譲渡を決断した理由の詳細は後述しますが、後継者不在の解決と当事業の成長と発展を目的とするM&Aでした。 買い手様は、古着販売・レンタルなどを行っている業歴ある従業員100名ほどの法人で、リユース事業とのシナジーによる更なる成長を目指したいとの意向のもと買収を強く希望、マッチングした案件でした。売り手様のオーナー様は40代後半の方で、4~5年後には実家へ戻り実父が経営する法人を引継ぎことが決定していた。元々はサラリーマンでしたが自ら経営を行うことを目指しておられ、そのなかで、リユース業界は将来有望なマーケットに成長するとのお考えより、ノウハウの取得のために個人で大手フランチャイズチェーン(FC)に加盟、その1年後に起業し総合リユースショップを開業されました。 しかしながら、開業5年を経過した以降、総合ショップであるゆえの効率の悪さを実感され、今般の対象会社を設立されブランド品に特化したリユースショップを独自のノウハウ等で立ち上げました。ただ、オーナー様はFC契約の競業避止条項に配慮し、株主として関与される形をとっていたため無報酬、店舗運営は、リユース業界に精通している旧知の方を店長として迎え、ほぼ任せるとの変則的な経営体制となっていました。 そのなか、創業より順調に業績伸長されていましたが、現状の1店舗での更なる成長に限界が生じ、新規出店、大型店への移行など新たな施策の実施のため投資等が必要でしたが、現状のオーナー様の経営への関わり方、さらに4~5年後には実家へ戻り実父が経営する会社を引継ぐことが決定していることもあり、ここで投資等を行うことが難しいと判断されたことが譲渡の主な理由でした。 本来であれば、店長によるバイアウトも選択肢として考えることができますが、店長ご自身がオーナーになることを希望されなかったため、外部への売却を検討されることとなり、オーナー様と親しい関係にある保険代理店様を通じて、弊社がファイナンシャルアドバイザー(FA)として仲介業務の受託をさせていただくこととなりました。


事業成長を見据えてー成長の壁と売却決断の理由

ーオーナー様が抱えていた不安、課題はどのようなものだったのでしょうか?

最終的に事業の成長、それに伴う従業員の処遇改善をはかることが、オーナー様の強い意向でしたが、オーナー様ご自身があまり表立つことができず、4~5年後に実家に戻り実父が経営する会社を引継ぐことが決定したいたため、経営判断が自分都合に偏りがちになっていまうとのジレンマを抱えておられました。ただ、前述した強い意向を実現するためには、自らで経営を続けるよりも、M&Aにより事業成長のための戦略をしっかりとお持ちな新たな経営者に委ねることが最適とも思っておられましたので、弊社よりも助言を行いつつプッシュさせていただきました。

ーどのようなアプローチでM&Aを進めたのか教えていただけますか?

M&Aを進める際には、すべての案件においてまずオーナー様の「不安」に対して丁寧に向き合うことが重要だと考えています。具体的には、譲渡先様の選定をする際に重要な判断材料となることは何かを明確にすることに努めています。本案件では、売り手様との打合せで「事業を成長させて欲しい」が強い意向であることが明確となったので、これを最重要の判断材料と合意、譲渡のプロセスにおいて、事業を成長させるために何が必要なのか、特に重視したのは買い手様が提示される成長戦略でした。そのため、意向表明書を提出いただく段階で、金額や条件だけではなく「成長戦略」も提示していただくこととし、「成長戦略」にウエイトを置き金額や条件等を総合的に判断し、次のステップとして「独占交渉権」や「優先交渉権」を付与するかを決定、これら選定基準・ステップにて進めました。

買い手選定の決め手は、価格か成長戦略か

ー印象に残っているエピソードについて教えていただけますか?

結果的に3社の候補先に絞られ、その中から最終的に1社を選定しました。3社それぞれが提示された成長戦略は大きく異なり、正直、最終的に選ばれた候補先様の成長戦略には若干の疑問を感じておりました。また、オーナー様も候補先3社の中で、最終的に選ばれた候補先様を第一候補と考えておられたわけではありませんでした。ではなぜこの選択がなされたのかと言いますと、最終的には価格が決定要因となりました。最終的に選ばれた候補先様からどうしても譲渡を受けたいとのことで他社より10%ほど高い金額の提示をされ、その額がオーナー様の心を動かしました。当初の方針であった「成長戦略を重視する」という基準から逸脱する形となったため、この点については議論を重ねることになったことが非常に印象に残っております。 最終的に、「価格」という要素が人の心を動かす大きな要因となることを改めて実感しました。今回の案件においては他の候補先様にとって少し不公平ではなかったかと感じる部分もあり、その点も印象に残っております。

株式会社ジョイントバンク 永井 秀則 氏

成功のカギは市場の成長と迅速な対応力

ーこの案件が成功した要因は、どのような点になるのでしょうか。

まずリユース業界そのものマーケットが成長を続けており、多くの買い手様が参入を希望されている点です。買い手候補先様は、弊社が直接発掘した先様もありますが、普段から交流を持つお客様や親しい同業コンサルタント様を通じても候補先様が多々ありました。定期的に情報交換を行う中で、特にリユース案件があれば紹介してほしいとのご要望をいただいていましたので、ネットワークを活用することで、早期に複数の候補先様を見つけることができました。  余談ですが、意向表明書をご提出いただいた段階で7-8社の候補先様がいらっしゃいました。しかし、資金調達に課題を抱える候補先様が一定数おられました。資金調達には時間がかかるうえ、確実性が担保されないことから、最終的に申し訳ないながらも除外させていただく判断をさせていただきました。さらに、成長戦略の実現には一定の資金力が不可欠です。そのため、手元資金の流動性をはじめ資金力があると判断した買い手様を優先させる方針をとりました。 

ー売り手のオーナー様が最も満足されたのはどのような点だったのでしょうか。

オーナー様が最もご満足された点は、最終的に提示された価格が当初私とお話ししていた想定よりも1,000万円上がり、手残りが大幅に増えたことです。さらに、譲渡後の事業に関しても、買い手様が売り手様のご意向を汲んだ成長戦略も取り入れることとなり、今後の成長を推進していける方であったことも確認でき満足につながりました。オーナー様にとっては、結果的に高価格で、事業の将来性を託せるお相手様を選べたことが非常に重要であったと感じております。

ーオーナー様とのアフターストーリーがございましたら、教えてください。

今回の案件では、譲渡後のPMIを特に重視しておりました。私が過去に携わった案件でも、PMIが成功のカギを握る事例が多く見られたため、常に、買い手様がそのプロセスをやりきれる方なのかを判断するポイントとして意識しております。また、買い手様FAに対してデューデリジェンスの段階で、一般的なPMIのプロセスを含めた準備を進め、引き継ぎを円滑に行えるようにしてもらうことにも努めてもらいました。 


M&A成功の秘訣は、慎重な準備と現実的な判断

ー最後にこのようなM&Aをご検討されている方々へメッセージをお願いします。

今回の案件ではリース業界が成長している背景もあり、買い手様を見つけやすい状況でした。しかしながら、どの業界でも同様ですが、M&Aを成功させるためには慎重な準備と現実的な判断が必要です。特に、売り手オーナー様がご自身の会社を「高く売りたい」と「高く売れる」と考えられている場合、ご希望の価格が市場の実態とかけ離れている事例も少なくありません。最初の段階で現実的な価格を設定しないと、交渉の途中で方向性がずれ、最終的に話が進まなくなることがございます。これは、売り手様にとっても買い手様にとっても不幸な結果を招きかねません。 そのため、弊社では、最初にオーナー様と希望価格についてしっかりと協議し、現実的なレンジを定めるよう努めております。重要なのは、多くの意見を集めるだけでなく、その中からなぜこの評価になるのかを理解し、謙虚な姿勢で希望価格を判断をしていただくことです。市場の実態や買い手様の視点を踏まえて価格を決めることで、円滑で納得感のある交渉が可能になりますので、冷静で現実的な判断をもって進めていただければと思います。