対象となったのは、「犬のグッズに特化したEC販売事業」で、取組形態は事業譲渡でした。売り手様は、20代のオーナー様で、創業から約1年半という短い期間ながらも、高いITリテラシーをもっておられ、それをもってが開発したECサイトを活用し事業を展開されておりました。この事業にはオーナー様のお母様も梱包・発送業務などで携わっておりましたが、お母様の体調不良をきっかけに事業の売却を決断されました。 この案件は、弊社が親しくしている税理士よりトスを受けたもので、売り手様は事業の譲渡価格を1,000万円超で希望されており、当初この案件の譲渡は難しいと判断し取り扱いを断りましたが、売り手様が一定の譲歩をするので取り扱って欲しいとのことで、プレマーケッティングを行ったところ、弊社の長年の取引先オーナーが関心を示されたので、取り扱いすることを決め、価格交渉が絶対に必要となるため仲介ではなく買い手様FAのみを勤める方式にて取り扱いました。
売り手オーナー様が抱えていた最大の不安は、お母様の体調不良により、梱包・発送業務を行う人材がなく事業運営が難しくなったことです。一方で、売り手オーナー様はご自身が開発したECサイトに非常に強い自信をお持ちであり、ECサイトの価値を正当に評価してほしいという想いはあり理解はしましたが、事業の収支実績とその想いましたが大きく乖離していることが障害、課題でした。
最も重要だったのは、ECサイトの構成や実際の運用、使い勝手などについて徹底的に検証することでした。また、売り手のオーナー様がご希望されていた売却価格は1,000万円超でしたが、事業開始から約1年と短いなかで、広告費の先行投資が利益を圧迫しており収益面での安定性が十分ではない状況でした。そのため、初期段階から希望価格の調整が必要であることを意識しながら進めました。
ECサイトのシステム引き継ぎの難航です。システム自体は非常に優れたもので買い手様も高く評価していましたが、使用方法を説明するマニュアルがあるとDD時にヒヤリングするも、実際にはマニュアルとは言えるものはなく、通常の引き継ぎ以上の支援、協力が必要だったため顧問契約を締結しました。実際に引継ぎを受けるなか、システムは買い手様にとっては使いこなすのが難しく、買い手様の問合せ等への売り手様の不親切な対応にも不満を感じられ、感情的なこじれが生じ引き継ぎがスムーズに進みませんでした。その結果、売り手様と買い手様の間で信頼関係が崩れ、本来であれば1年間解約しない予定の顧問契約も合意解約に至りました。これにより、買い手様は追加で200万円を支出し、システムの改修を余儀なくされました。 結果として十分に引き継ぎがなされず、追加投資を行いシステム構築に時間を要し営業を中々スタートできず、事業譲渡を受けたメリットはなくなり、新規にシステム構築から独自にスタートする方がよかったと思いました。 この案件を通じて、IT関連の事業譲渡では、財務面だけでなく、システムや仕様の詳細なデューデリジェンスが重要だと痛感しました。特に、ITに関する引き継ぎの難しさを学んだ案件でした。
正直、この案件を受けた時点で間違っていたと思う部分もあります。税理士からのトスではあったのですが、私自身がITに関する専門知識を持っていなかったため、ECサイトの仕様やシステムについて十分な理解が欠けていたのが大きな要因です。デューデリジェンスにおいて、IT面の検討が十分でなかったと反省しております。 また、最近ではECサイトを立ち上げてM&Aを目的とするケースが増えているため、そのような案件には特に注意が必要だと感じました。この案件は一部異なっていたものの、ECサイトの売却を目的に始める企業様も増えているため、その点を踏まえた慎重な対応が必要だと感じました。
転売目的で事業を行うこと自体は問題ないと思いますが、最終的な出口としてM&Aを目指すのであれば一定の事業実績が必要です。そして、システムは使いやすく、誰でもある程度操作できるように整備されていることが重要です。操作マニュアルやシステムの使い方がしっかりと整備されていないと、後々のトラブルの原因となります。万人が扱えないシステムでの場合、その点を売却時に明示しておくことで、後々問題が生じる可能性を抑えることができると思います。
株式会社ジョイントバンク
株式会社ジョイントバンク
本案件では、ECサイトという無形資産の評価と、その引き継ぎプロセスの難しさが大きな課題となりました。売り手オーナー様は優れたITスキルを活かし、短期間で事業を成長させましたが、買い手様のITリテラシー不足により、スムーズな事業移行が困難となり、結果として追加投資が必要となる事態に陥りました。
M&Aにおいて、システムやオペレーションの引き継ぎは非常に重要な要素です。特にIT関連事業では、買い手が問題なく運用できるかどうかを事前にしっかり検証し、マニュアルの整備や移行期間のサポート体制を構築しておく必要があります。
今回のケースから得られる教訓として、①システムの使いやすさやドキュメント整備の重要性、②売却希望価格と実際の事業価値の乖離に対する現実的な対応、③買い手の運用体制やスキルを考慮したM&Aの進め方が挙げられます。今後、ECサイトのM&Aを検討する際には、技術面だけでなく、引き継ぎの実務的な負担やリスクを十分に考慮することをおすすめします。