譲渡額
非公表
売上高
非公表

介護業界の事例

訪問介護M&Aのリアル——人材確保と引き継ぎの壁を乗り越えた成功事例

エリア
関東
オーナー
40代
売却検討理由
アーリーリタイア
スキーム
株式譲渡

永井 秀則

株式会社ジョイントバンク

本案件では、介護業界特有の「人材確保の難しさ」と「現場負担の重さ」がM&Aの決断に大きく影響しました。売り手オーナー様は、経験豊富なプロフェッショナルでありながら、慢性的な人手不足と現場業務の負担増により、事業の継続が困難と判断し売却を決意されました。

一方で、買い手様は訪問介護事業の拡大に強い意欲を持ち、営業エリアのシナジーを活かせることを評価し、積極的に譲受を検討。M&Aの成功の鍵は、事業継承におけるキーマンの雇用調整でした。譲渡交渉では、売り手オーナー様が事前に従業員へ説明したいという強い意向を持ち、慎重な対応が求められましたが、双方の合意形成を通じて、スムーズなPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)を実現できました。

この事例から得られる学びとして、①介護業界のM&Aでは「人」の要素が最も重要であること、②買い手側の経営資源を活かした従業員の待遇改善が成功要因となること、③売却時には人材の確保と引き継ぎ体制の整備が譲渡価格や条件の交渉を有利にすることが挙げられます。訪問介護事業のM&Aを検討される方は、人材の確保と引き継ぎの計画を最優先に考えることをおすすめします。

訪問入浴事業、売却の背景と課題

ー案件の概要について教えていただけますでしょうか。

案件内容は、東京の特定エリアで訪問介護事業を行っている法人の株式譲渡で、弊社のアライアンス先より許認可の承継についての相談があり、弊社にて仲介と思っていましたが、有力と考える候補先様が利益相反より仲介をNGとすると判断し、弊社は買い手様FAを勤めた案件です。 業態より、許認可の承継が課題であることより、当初から株式譲渡でなければ難しい案件と認識し取組みました。売り手のオーナー様は40代後半の方で、もともと大手の医療介護事業会社様で15年ほど現場を経験した後、独立して対象会社を設立され、事業を運営されていました。営業エリアは東京都の4区が中心で、この地域が買い手様の既存事業とのエリアと重なっていることを認識、既存事業とのシナジーがあることを説明し強い関心をお持ちになられました。 買い手様は、不動産事業、介護・医療福祉、教育など複数の事業展開を全国で行っている法人で、M&Aを活用され事業領域を拡大、業績を伸長させてきた経歴があり、事前にM&Aニーズを把握していました。  そのため、対象会社の営業エリアは東京都の4区が中心で既存事業との展開エリアと重なったこととシナジーがあることと判断し、案内したところ想定どおり強い関心をお持ちになり、無事にマッチングができた案件でした。

人材不足と現場負担が引き金に

ーオーナー様がM&Aを検討された背景について教えていただけますでしょうか。

現場作業が重労働で非常に大変なこと、オーナー様自身が現場に立つことが辛くなってきたということがまずありました。また、スタッフの補充が難しいこと、給料の維持に界があること、介護業界特有の収益構造の厳しさにも課題をお持ちでした。これら状況より  事業経営を続けることに限界を感じられ、売却を決意されました。

ーオーナー様・M&Aに対してどのようなアプローチをされたのか教えていただけますか?

M&Aの経験のない多くのオーナー様がいらしゃいます。そのため、まずはM&Aについての説明、理解をもらうことを最初のステップとして必ず行います。それで、M&Aについて理解をされたうえで、何故M&Aをしたいのか?その理由をしっかりとお聞きし、その理由を整理します。それによりM&Aを行う理由が明確となり実施への決断、本気度を確認します。そして、これから譲渡価格、絶対に必要な条件等を協議しM&Aを行う条件等をすべて完備し、営業活動を開始しています。本案件では、このステップを踏むことにより、上記記載のとおり売却理由も明確となり、売却条件の擦り合わせを行い、売り手様が本気度をもって対処されました。 一方で、買い手様は既存取引様で、そのM&Aニーズ、業容などを把握していましたので、売り手様の経営課題の解決、克服はできると判断、その補足説明も行ったため、早期に譲受をされたいとなり、スムーズな商談が行われました。

キーマンとの調整が最大の壁

ー印象に残っているエピソードについて教えていただけますか?

この案件で最も印象に残っているのは、従業員のキーマンである方との関係でした。その方はオーナー様の右腕として独立当初から共に働いてきた重要な人物で、年齢的にはオーナー様より年下の方でしたが、現場を仕切る力を持っており、買い手様より「彼がいなければこの事業が回らない」との判断で雇用継続が条件となりました。そして、通常であれば、譲渡後に従業員様への告知を行うものですが、売り手様はその方に事前にお話をして彼の反応を確かめたいという強い希望をしてきました。キーマンである方がとの面談により、M&A自体が流れてしまうリスクは無論のこと、現オーナーによる経営継続はできなくなる重大なリスクを孕んでいるため、どう買い手様を納得させるかをかなり悩んだことが印象に残っています。 結果としては、買い手様には、売り手様側の上記記載のリスクをしっかりと説明し、PMIをどう進めるかに焦点を絞り、特にこのキーマンの方をどう引き止めるかを話し合い買い手様に譲渡条件より除外してもらうことに合意してもらいました。 最終的に、譲渡後もキーマンの方も継続勤務のうえ買い手様と協力していく合意が形成され今日まで至っています。

双方のリスクを超えたマッチングの成功

ーこの案件が成功した要因は、どのような点になるのでしょうか。

買い手様が対象会社を譲り受けたいとの強い意向があったこと尽きると思います。買い手様が強い意欲を持っていたことで、初めは譲渡条件に対して躊躇があった部分も、最終的には受け入れていただき進めることができました。交渉の際に、買い手様がこの案件に強い関心があるという仮説に基づいて進めた結果、成功に繋がったと感じております。

ー売り手のオーナー様が最も満足されたのはどのような点だったのでしょうか。

キーマンの継続勤務の条件除外し、譲渡が無事に行われ、ご満足いただける価格で取引が成立した点です。さらに、キーマンの方の給与や人事面で役職の優遇措置が取られたことにも満足されていたようです。キーマンの方が会社を引き継いでからもやる気を持って働き続けることが確認できた点もご満足いただけた要因だったと思います。

株式会社ジョイントバンク 永井 秀則 氏

従業員の待遇改善で見えた新たな未来

ーオーナー様とのアフターストーリーがございましたら、教えてください。

売り手様・買い手様とは、非常にコミュニケーションを大事にしておりました。世代も近かったため、頻繁に「飲みニケーション」を行い、現場にも何度も足を運びました。現場のスタッフと直接お話をし、状況を丁寧に把握するように努めておりました。 また、買い手オーナー様が経営のグループ会社の福利厚生や待遇を適用したため、社員の皆様にとっても大きなプラスになりました。給与のアップやボーナス支給など、グループに加入することで待遇が改善され、結果的に社員の皆様も「こちらに来てよかった」と喜ばれておりました。 


成功する訪問介護M&Aの秘訣

ーこのようなM&Aをご検討されている方々へアドバイス・メッセージをお願いします。

 訪問介護系に関わらず介護事業は、「人」の問題が最も重要なポイントです。従業員がしっかりと確保、雇用継続が安定していないと、どんなに事業が好調であっても、買い手様が見つかりにくくなります。 また、大手企業様であれば、ある程度人員に余裕があったり、人材の確保ができる場合があったりしますが、一般的にはそのような会社に限定されるため、買い手様が見つかりにくくなる可能性もあります。そのため、M&Aを検討する際には、できるだけ人員を確保した状態で売却を進めることが重要です。事業と人をセットで売却することが最も効果的で譲渡価格を有利にもってゆくことができると思います。