譲渡額
非公表
売上高
非公表

工事/施工管理業界の事例

デザイン×資金力──M&Aが生んだ成長の方程式

エリア
関東
オーナー
30代
売却検討理由
事業の成長発展
スキーム
株式譲渡

朝野 一博

株式会社シードアドバイザリー

デザイン力に優れた企業と、資金力を持つ企業がM&Aを通じて相互補完し、双方の成長を実現した成功事例です。M&Aの本質は、自社にない強みを取り入れ、短期間で成長を加速させることにあります。本案件では、資金調達の課題を抱える売り手と、デザイン性の向上を求める買い手が理想的にマッチしました。

また、M&A後のスピーディーな成長と、両社が抱えていた課題の解決が成功の鍵となった点も重要です。経営者にとって「時間を買う」戦略としてのM&Aの有効性を示す好例といえるでしょう。

デザイン力×資金力が生む新たな可能性

ー案件の概要について教えていただけますでしょうか。

買い手様は地方で長い歴史を持つ、非常に古い体質の戸建て工務店様でした。この工務店様は、戸建て住宅の施工だけでなく、自社製品を製造するメーカーとしての顔もお持ちであり、幅広い事業を展開されておりました。年商は、約50億円程度の規模を持つ企業様でした。売り手様は30代の経営者様が率いる企業様で、デザイン性の高いリノベーションを得意とされており、年商は約3億円程度でした。

M&Aの決断:事業スケールの鍵は資金調達

ー売り手のオーナー様がM&Aを検討された背景について教えていただけますでしょうか。

売り手様についてですが、元々は買い手様として私たちとコンタクトを取りながら情報提供をさせていただいておりました。しかし、あるタイミングで「譲渡を検討する」というお話になりました。理由としては、売り手様は物件を買い取り、リノベーションして販売するという事業をされていたのですが、事業をさらにスケールさせるためには金融機関からの協力が必要だと考えておられました。実際、精力的に物件を購入し、利益も大きく出しておられましたが、金融機関はその事業モデルを十分に理解しない傾向があり、買い取れる物件に制限が生じておりました。このような状況の中で、資金が全く足りないという課題に直面しておりました。その解決策を模索する中で、株式を譲渡するという選択肢にたどり着きました。

売り手様は、事業を実現するための資金提供を受けられるのであれば、株式を譲渡することに特に抵抗感はないとお考えでした。その上で、数億円という金額を自由に活用できる環境を提供してくれる相手であれば譲渡したいというご意向をお持ちでした。このような背景から、M&Aの話が始まりました。

ーM&Aに対する不安や課題をオーナー様は抱えていたと思いますが、オーナー様が抱えていた不安、課題はどのようなものだったのでしょうか?

売り手様は自分自身やメンバーに対して自信を持っておられたので、大きな不安はなかったようです。しかし、いくつかの懸念点をお持ちでした。例えば、役員報酬に制限がかかることへのご不安、現在好きな車を会社の費用で購入している状況が変わり、車両に関する制限が生じる可能性について懸念されておりました。この点については「今後、乗りたい車に乗れなくなるかもしれない」という不安があったようです。また、もう一つの大きな課題として、コミットメントラインの確保が挙げられます。具体的には、「3億円まで資金を利用できる条件が本当に実現するのか」、「さらに5億円まで枠を拡大できるのか」という点について、不安を感じておられました。

古い体質を打破する相互補完型のマッチング

ーどのような経緯で買い手様とマッチングされたのか教えていただけますでしょうか。

売り手様に関しては、デザイン性と不動産の仕入れに対する目利き、そして情報ルートが非常に優れており、それは誰が見ても明確に分かる点でした。結果として仕入れた物件に対してのリノベーションが非常に高いバリューを生んでおり、その実績も豊富でした。一方、買い手様に関しては、地元ではトップの会社ではあるものの、体質が少し古く、特にリノベーションやリフォーム、不動産に絡むデザイン性が著しく欠けておりました。この点が大きな課題でしたが、その課題を補ってくれる相手だったため、うまくいきました。

M&Aの苦悩と調整の舞台裏

ー印象に残っているエピソードや困難だったポイントについて教えていただけますか?

売り手様と買い手様双方に共通していた点ですが、買い手様に関しては、古い体質の企業様でありながら、M&Aを積極的に進めていこうという方向性や努力が非常に感じられました。ただ、進めていくにつれて確認すべき事項が多く、契約書に関する理解を得るために何度も話し合いを重ねる必要があり、時間を要したことを記憶しております。また、役員の数も多かったため、それぞれの意見が対立したり、否定的な意見も出ることがあり、その調整が買い手様にとっては大変だったと思います。一方、売り手様に関しては条件が守られるのかどうかについての不安が強く、特に現在の保証債務についてどのようになるのかが非常に苦労した点として記憶に残っております。

ーこの案件が成約した要因は、どのような点になるのでしょうか。

買い手様目線では、不動産の目利きとデザインが手に入り地元でも展開していけるものを得たことで、 既存の本体に関しても大きくプラスが働いたことあげられます。加えて、投資する案件についても、単体の企業で相当な利益が出ていたため、グループ全体としてもさらに違うところに投資できるような企業の体制になりました。売り手様に関しては、結果論になりますが、求めていた条件、役員報酬、車、そしてイグジット金額といったところがきっちりとまとめることができたこと、売り手様も買い手様が不足してるところを丹念に指摘し的を得ていたところが、買い手様からみても経営者様としても素晴らしいとお考えになり、うまくいったと思います。

株式会社シードアドバイザリー 朝野 一博 氏

成長のカタチ:成功事例が示すM&Aの可能性

ーオーナー様とのアフターストーリーがございましたら、教えてください。

買収後の状況についてですが、買収された企業様の役員様がすぐに役員として参画されました。ただ、管理面を含めて指摘するような課題が特になく、役員としての肩書きだけが存在しているような状況でした。その中で億単位の資金を要求される場面があり、買い手企業様も最初は驚かれておりました。しかし、半年ほどでその要求額を上回るような仕入れと利益を生み出し、その成長速度には非常に驚かされていました。このような成果を受けて、買い手企業様も「次にどの分野に投資すべきか」と嬉しい悩みを抱えるような状況に至りました。
 また、地元で課題となっていたデザイン性の欠如についても、積極的に協力を得られたことで、これまで買い手企業様で塩漬け状態だった案件も売れるようになりました。結果的に、買い手企業様は売り手企業様のリソースを効果的に活用し、双方の企業様が大きな発展と成長を遂げることができていると考えております。

M&Aは時間を買う戦略:経営者へのメッセージ

ー今後、同業種でM&Aを検討されてる方に向けたメッセージをお願いいたします。

若い方が譲渡を決断されたという点も特筆すべきですが、M&Aの本質は自社に不足している部分を補うことにあると考えております。自社に足りないスキルやリソースをゼロから育てたり、新たに優秀な人材を採用して基盤を構築するという選択肢もございますが、それには多大な時間と労力が必要です。それに対して、すでに一定の成功を収めている企業様を譲り受けることで、やりたかったことを短期間で実現できるようになります。さらに、結果も早期に出せる上、失敗のリスクを低減できる点が、M&Aの大きな魅力の1つです。
 このように、M&Aは「時間を買う」という側面を持っており、今回の案件はその「時間を買う」という利点を最大限に活用し、さらに文化を買うことができた成功事例であると思います。