本件は、私が前職時代に最も多く手がけていた運送業の案件で、コンサルタントとして担当したケースとも重なる部分が多々ありました。最初のきっかけは、私がテレアポや飛び込み営業でアプローチしたことです。実はこの関西の運送会社には、前職時代にも何度か提案を行ったことがありました。ただ、一定期間の空白があったため、改めて私の方からご連絡し、訪問させていただいたという経緯があります。
かつての運送業界は、長距離を走れば走るほど稼げる時代でした。そのため、関西から関東、さらには九州へと積極的にトラックを走らせ、事業を拡大されたそうです。当時の年商は、約30億円に達していました。しかし、業界に規制が入ったことで、以前のような長距離運送はできなくなってきていました。その中でも、社長は「会社を100億円規模にまで成長させたい」という目標をお持ちでした。
同じような長距離運送の会社を買収しても、シナジーは期待できません。そこで、まずは異なるビジネスモデルの導入を提案しました。とはいえ、既存事業とかけ離れすぎていても意味がありません。最初に買収していただいたのは、関西の倉庫業も手がけるエリア配送の会社でした。この会社は近距離輸送を中心としており、労務リスクが比較的低く、加えて倉庫業も手がけているため安定した収益が見込めました。
最終的に美容室も譲り受けることになったのですが、美容室のワックスや化粧品の在庫管理を自社の倉庫業で担うなど、後からシナジーが生まれ、大きな成功につながっています。これまでは私がオーナーを主導して譲渡先を決定してきましたが、今では私から提案することはほとんどなく、完全に自走できる企業へと成長しています。
バリュエーションに関しては、暖簾代(のれん)や複数年契約が絡むため、場合によっては高額な評価がつくこともありました。しかし、「しっかりと利益を出している会社であれば、長期的に見れば必ず回収できる」と確信を持って提案を行いました。
運送業は建設業と同様に新卒がなかなか入ってこない業界であり、業界イメージを改善する必要がありました。そこで、「グループ会社として物流だけでなく、美容室やクリニックなど多角的な事業を展開している」と企業イメージを変えるブランディングの提案を行いました。異業種の買収が結果としてシナジーを生み、大きな成功につながっています。
今回のM&Aにより、長距離と近距離配送を1つのグループ内で一貫して対応できる体制が整い、事業の幅が広がりました。さらに、コスト削減を図るために整備会社やガソリンスタンドの買収も進めた結果、固定費の大幅な削減にも成功しました。
私が買い手様に常にお伝えしていたのは、「売り手様も想いを持って事業を手放しており、リスペクトの気持ちを必ず持って引き継いでほしい」ということです。そして、そのマインドこそがPMI(M&A後の統合プロセス)を成功させる鍵にもなっていると思います。
M&Aフォース 株式会社