売り手様は長崎の企業です。地方都市という立地に加え、債務超過で赤字幅も大きく財務状況が非常に厳しかったため、正直どの企業もなかなか手を出しづらいような案件でした。しかし、私は本件に限らず、「どこかに必ず評価できるポイントがあるはずだ」という考えを持っており、今回も数字だけでは測れない価値を探しました。実際、売り手様は長崎空港でも取り扱われているようなご当地商品を製造しており、地域で一定の認知と実績を築いていました。その点に強みを感じ、M&Aが十分に成り立つ可能性があると判断しました。
財務状況が非常に厳しく、成功報酬の支払いも困難な状況にありました。売り手様は過去に複数のM&A仲介会社に断られており、自社の価値についてはある程度理解されていました。とはいえ、資金的な余裕はなく、成功報酬を個人で支払うのも難しい状態でした。
私は基本的に、売り手様のご意向はすべて尊重するようにしています。しかし、本件に関しては、財務状況を踏まえると、条件にこだわりすぎると確実に相手が見つからないと判断し、その旨を正直にお伝えしました。売り手様からは、「資金的な負担を最小限に抑えられるのであれば、その他の条件には柔軟に対応できる」とのお言葉をいただき、その条件で買い手様候補のマッチングを進めました。最終的に譲渡が決まったのが、建設業を営む会社です。この買い手様は、リスクよりも将来的なメリットを重視し、2代目として自らの力で新しい事業に挑戦したいという強い成長意欲を持っておられました。まさに私が考える“良い買い手”にぴったり当てはまる方でした。
買い手様は、私が考える“良い買い手”にぴったり当てはまる方でした。リスクよりも将来的なメリットを重視する姿勢があり、さらに2代目の経営者として自らの力で新しい事業に挑戦したいという強い成長意欲をお持ちでした。
私が考える“良い買い手”の3条件は、「成長意欲」「リスク許容度」「変化への柔軟性」があることです。まず1つ目は、企業を大きく成長させたいという明確な目標を持っていること。2つ目は、たとえ業界的にリスクを抱えていても、それ以上のリターンを信じて行動できること。3つ目は、事業を変革しようとする意志を持っていること。特に2代目・3代目の経営者に、この傾向が見られます。今回の買い手様は、まさにこの3つ条件全てに当てはまっていました。結果として、赤字企業の買収という難しい案件にもかかわらず、譲渡後はスムーズに統合作業が進み、良好な関係を築くことができました。
今回のM&Aに大変満足いただき、売り手様や後継者の息子さんから「松岡さんのおかげです」と、感謝の言葉をいただきました。
売り手様や後継者の方から「松岡さんのおかげです」と感謝の言葉をいただいたとき、この仕事のやりがいを改めて強く実感しました。今回の案件は、買い手様にとってリスクも大きいものでした。しかし、それを上回るメリットやビジョンを明確に描き、資料に落とし込んでご提案できたからこそ、成立に至ったのだと思います。売り手様はその後引退し、長年の趣味だった料理の腕を活かして料亭を営むなど、穏やかで充実した第二の人生を歩まれています。後継の息子さんは専務から社長へと昇格し、順調に会社を運営されていると伺っています。
私たちの役割は、売り手様に夢を見させると同時に、その夢にともなうリスクやデメリットを可能な限り可視化し、最小限に減らしていくことです。そのためには、感情と論理の両方をバランスよく使う必要があります。交渉力はもちろん、リスクヘッジの設計や譲渡後の関係構築まで見据えたサポートが求められるのが、我々M&Aコンサルタントの本質だと考えています。
M&Aフォース 株式会社