医師のためのM&A：地域医療を承継し、新たなステージへ

後継者不在からの決断：地域医療を支える医師のM&A

ー ディールの概要を教えてください。

売り手様は、兵庫県西宮市で開業されている個人事業主の内科医の先生です。後継者不在の課題を抱え、M＆Aを検討されていました。買い手様は、医療法人をお持ちの大阪で1店舗内科を経営されていらっしゃる40代の先生です。本件は成約までに約3年を要し、合計8回にわたるトップ面談を経て成約に至りました。売り手様は80歳の先生で、40代の頃から約40年間にわたり、この地で診療を続けてこられました。阪神大震災の前から地域医療を支えてこられたこともあり、「患者様を見捨てたくない」という強い思いをお持ちでした。そのため、M&Aに際しては売却価格は二の次で、患者様を大切にしてくれる買い手であることを重視されていました。また、可能であれば、売却後も引き続き診療に携わりたいという意向をお持ちでした。トップ面談を行った企業の半数以上は、独立を希望する医師の方でした。その中で、「可能であれば引き続き働いていただけるとありがたい」と、売り手様の意向にマッチするお考えをお持ちの経営者をご紹介できたことで、良いマッチングにつながったと感じています。

ー M&Aを進めるにあたり、売り手オーナー様は不安を感じていらっしゃいましたか。

多くの仲介会社からDMが届いて実際に何社かと話をしたものの、仲介会社に対して警戒心を持たれていたこともあり、「本当にこの会社に任せて大丈夫なのか」という不安があったそうです。その中で、私は売り手様が信頼する方からのご紹介でお会いする機会を得ました。紹介者の存在もあり、売り手様には安心してお話を聞いていただけたのではないかと思います。しかし、実際にご依頼をいただくまでには時間がかかりました。資料をいただくまでにも何度も足を運び、世間話を交えながら、私自身の考えや想いをお伝えしました。私は元々会社勤めをしていましたが、本当に困っている方をフォローしたいという思いで会社を設立したことなどもお話しするなかで、少しずつ信頼を勝ち得ることができたと感じています。

信頼を築く3年間：M&Aアドバイザーの献身的なサポート

ー 3年にわたるディールの中で、最も印象に残っているポイントや難しかった局面を教えてください。

本件ではトップ面談を8回実施しており、多くの買い手候補の方々に興味を持っていただき、貴重な時間を割いて面談に臨んでいただきました。売り手様のクリニックは西宮北口駅直結のビル内にあり、立地も魅力的でした。しかし、売り手様が不動産も一緒に売却したいとの意向をお持ちで、全ての希望条件を満たせる買い手様とはなかなか巡り合えない状況が続いていました。買い手の探索は難航しましたが、粘り強く探し続けた結果、最終的に医療法人を運営されている40代の先生とご縁があり、無事に譲渡を実現させることができました。

ー 買い手様はどのように探索されたのですか。

独立を希望するドクターや、分院を探しているドクターを抱えている医療法人など、提携先にお声がけさせていただきました。また、マッチングサイトも活用し、広く買い手を募りました。

ー 今回の案件が成功した要因は何だと思われますか。

売り手様は、不動産も含めて売却したいという強いご意向をお持ちでした。そのため、不動産ごと譲り受けできる買い手を見つけられたことが、成功の大きな要因だったと思います。

M&A後の新たな活躍

ー 今回のM&Aで、売り手オーナー様が満足されたポイントを教えてください。

満足されたポイントは、2つあります。1つ目は、希望通りの形で勤務を続けられたことです。売却して終わりでは寂しいということで、M＆A後も週3回午前のみ勤務されていました。体調面を考えると毎日働き続けるのはしんどいと感じていたなかで、ご自身に合った働き方ができたことは満足いただけたポイントだと思います。
2つ目は、売却後も良好な関係を築けていることです。もともとこの案件をご紹介いただいたのは製薬メーカー出身の方なのですが、その方を含め、売り手様と私の3人で食事に行く機会もあり、変わらず親しくお付き合いをさせていただいています。売り手様はお酒がお好きで、昼間からビールを楽しまれることもあり、そうした場にご一緒することもあります。「今後も関係を維持していきたい」という思いをお持ちだったため、売却後も変わらず交流が続いていることも、満足につながっているのではないかと思います。

ー M＆A後のアフターストーリーをお聞かせください。

M&A後も売り手の先生は引き続き勤務されていましたが、あるタイミングで一旦退職されたと伺っていました。ちょうどその頃、介護施設を経営されている方から「住み込みで働いているドクターが体調を崩して入院することになり、代わりに勤務できる医師を探している」という相談を受けていたんです。そこで、「高齢の方ですが、ちょうど先月勤務を終了された先生がいらっしゃいます」とお伝えしたところ、「高齢の方でも、週1〜2回でも来ていただけるなら助かります。運転手も手配します」とのお話だったので、売り手の先生をご紹介しました。介護施設の経営者の方からは感謝の言葉をいただき、売り手の先生も週に1〜2回でも働く機会を得ることができ、M&Aではありませんが良いマッチングができたと感じています。

ー 今後M＆Aを検討されているお医者様へメッセージをお願いします。

私の経験上、クリニックや医療法人を売却される方は、すでに十分に稼いでいらっしゃる方が多く、M＆Aにおいては価格を重視する方は少ない印象があります。そのため、価格ももちろん重要ですが、それ以上に対話を重ねながら売り手様が望まれることをしっかりと汲み取り、その希望を実現することに重きをおいています。今後もこの姿勢を大切に、M&Aのサポートに取り組んでまいります。